第76話 聖女ですから
「……わかった。兎に角事実を確認したい。明日情報部へは一緒に行かせてもらう。それまでに辺境伯の領地についても調べておくよ。フィーネが行くことも含めて、明日以降考えよう」
「はい、よろしくお願いします」
「フィーネ、もし行くとなれば俺も一緒だ。必ず君を守るからね」
「ありがとうございます。アレックス様が一緒なら心強いです」
アレックス様は優しく私を抱きしめた。自分では気づかなかったが、体が震えていたようだ。アレックス様の温もりを感じて震えがおさまった。
翌日、放課後にリリーとチャーリー、アレックス様と一緒に情報部へ向かった。チャーリーは朝から少し顔色が悪かった。昨日は遅くまで情報を集めていたようだ。
「いらっしゃい。アレックス団長までお越しになるとは、いよいよこの情報も信憑性がでてくるね。恐ろしいことだ」
部長のマルコ先輩が引きつった顔でそう言った。
「あの、情報は集まったのですか?」
「ああ、かなりの情報が集まったよ。魔物の発生数の増加、辺境伯の謎の死、森に入ることが禁じられている、なんていうものまであったな」
「あの、関係しそうなものは全て教えてください」
「ああ、勿論。これが事実ならかなり深刻な問題だよ」
「早速だが、本題に入っていいか?」
「はい、アレックス団長がいてくださって心強いです。僕たちでこの情報を扱うのは、荷が重いですから」
そう言って、マルコ先輩はみんなが集めた情報を話し始めた。
最近魔物の出現率が聖女の森で増えていること。住民は5年前から聖女の森への立ち入りを禁止されていること。その頃にそこを管理していたルイス辺境伯が死亡したが、理由がはっきりわかっていないこと。現在は弟の息子、つまり甥が辺境伯を継いでいること。辺境伯の軍が聖女の森で、定期的に魔物を討伐していること。最近森の近くの村に魔物が現れて怪我人が出たこと。
「そうか、ルイス辺境伯は、もともとイザベラお婆様の護衛騎士だった。お爺様の御代には魔法騎士団長をされて、引退後辺境伯になったんだ。亡くなったとは聞いていたが、理由が不明なのが気になるな」
「当時の噂では、イザベラ王妃は騎士団長と只ならぬ関係だと言われていました。勿論あくまで噂で何もないですが、心まではわかりません。亡くなったのもイザベラ元王妃が亡くなった数日後だとか……亡くなった時には後追い自殺だと一部の者が騒ぎ立てていましたよ」
個人情報を集めるのが好きなモリス先輩が遠慮気味にそう言った。孫であるアレックス様には言い難いのだろう。次にチャーリーが発言した。
「俺の情報にも、辺境伯は聖女の森で亡くなったという噂があった。魔物が増えだしたのも、辺境伯軍が森の入り口で見張っているのも事実のようだ。村人が狩りや山菜を採る許可を求めても断られるそうだ。以前は勝手に入って採れたそうだよ」
「そうなると異変が出だしたのは5年前になるのか……そんなに長く辺境伯は異変を隠し続けたのか……」
「理由はわかりませんが、その聖女の森に何かがあるのでしょうか」
『聖女の森って、サキが封印の石を置いた場所やろ?占いではそれを穢したってゆうてなかったか?』
「そういえば、何かが刺さっていて、それが原因で清浄が穢されたと言っていました」
「何かが刺さる?現地に人を派遣して、対策をとらないといけない事だけはわかったよ」