第69話 アレックスの計略
俺はすぐに会場へ戻り、マックスから報告を聞いてそのまま陛下の元へ向かった。十中八九フィーネが聖女だとバレてしまった。ここで変に隠し立てしても、事態を悪化する結果になると思った。
「陛下、先ほどの件で内密のお話がございます」
「アレックスか、いいだろう、控えの間を人払いしよう」
察しのいい陛下なら、今から俺が何を言い出すか、大方の予想はしているのだろう。人払いが終わり陛下と向き合って座ってから、念のため防音の魔法もしておいた。
「フィーネ嬢には迷惑をかけた。せっかく秘密にしていたのに、聖女だと皆に知れ渡る結果となってしまい気の毒なことをした」
開口一言、陛下が俺にそう言った。どうやら前から知っているような口ぶりだった。
「あの、陛下。そのことはお爺様からでしょうか?」
「ああ、旅立つ前にここへおいでになって、自分の遺言だと思って聞いてくれと言って話された。フィーネ嬢とアレックスは想い合っているから、例え聖女であっても引き離すなと、想い合うものを引き離していい結果はない、自分がいい例だと、そう言われた。確かにアレックスをフィーネ嬢から引き離し、ウィリアムと結婚させたとしても、そなたなら王家に反旗を翻しフィーネ嬢を奪いに来そうだ……」
「……あえて否定はしません」
「ははは、そうか。ウィリアムはフィーネ嬢を気に入っているようだから残念だよ。先ほどの件は、ミネルバ嬢が悋気を起こして突発的に自分を刺したようだ。あれは昔からウィリアムに気があったようだから、自分を傷つけて、あの子に罪悪感を持たせて側にいようとしたみたいだ。ウィリアム本人は気づいていないがな」
「そうでしたか……それでフィーネに怒っていたのですね」
「恋することはいいが、人に迷惑をかけるとは情けないことだ。王妃の姉の子だからと、少し甘やかしすぎたかもしれないな。後で処分は言い渡しておく」
「はい、陛下の御心のままに」
「で、今後フィーネ嬢をどうするかだが」
陛下はにっこり笑ってこちらの様子をうかがう。一応は俺の意向を聞こうということだろう。
「はい、今後は聖女だということは隠さず、聞かれれば聖女だと言うほうがいいでしょう。宣言することはしませんし、神殿に関わる気もありません。あくまでフィーネとして普通の生活をさせてあげたいのです」
「ふむ、今まで通りの生活を希望するか。はたしてそう上手くいくか?」
「そこはやってみないと分かりませんが、ここまで来ては隠し通すことは出来ないので、多少の不自由は仕方ないでしょう。今後は聖女を利用しようと近づく者もいるでしょうが、勿論私が全力で潰します」
「そこは任せるよ。分別のあるものなら、わざわざアレックスを怒らせるようなことはしないだろう」
「いろいろご迷惑をお掛けするかもしれません。ご助力いただけると幸いです」
「そこは父上の遺言だ。出来るだけのことはするつもりだよ。可愛い甥だしね」
「ありがとうございます。そう言っていただけて心強いです」
控えの間を出て会場へ入るとマックスが待っていた。
「団長、会場は落ち着きました。今夜は早めに閉会する予定です。」
「わかった。ご苦労だった」
「では、外の警備に戻ります。団長はどうされますか?」
「そちらに顔を出したら、会場に戻って安全を確認後に先に帰らせてもらう。フィーネの様子が気になるからな」
「そうですね。フィーネちゃん大活躍でしたが、聖女だとは知りませんでした」
笑ってそこは誤魔化した。王族にフィーネを奪われないため、黙っていたとはさすがに言えなかった。
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いよいよクライマックスも近づいて(予定)きました。
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