第67話 アレックスの心配事
「そうか、それが本当ならいいんだが……」
明らかにウィリアム殿下はフィーネを意識している様に見えた。さすがに表立って行動を起こすことはしないと思いたいが、フィーネが聖女だと分かればそれを理由に何か仕掛けられそうな気がしてならない。
今夜のフィーネは、妖精姫の様に可憐だった。会場に入った途端、男性の視線がフィーネに集まったのを感じた。俺がいるからさすがに声をかける者はいなかったし、フィーネも少しも気づいていなかったが……
俺や殿下と踊っている時も、周りの男がフィーネに注目していた。一瞬だったがフィーネが殿下に微笑んだ時には、俺も周りの男たちも思わず見とれていた……勿論周りの男たちには、威圧をかけておいたが。
4歳から見ているフィーネが、いつの間にか大人の女性になっていた。これからは、社交として夜会やお茶会にも呼ばれるだろうし、男性との関わりも最低限するはことになる。避けて通ることは不可能だ。
「アレックス様?」
「ごめん、考え事をしていた、何か言ったかな?」
「あ、はい。クラスの子たちと少し話をしに行ってもいいでしょうか?」
「ああ、行っておいで。私は騎士団の方へ顔を出してくる。何名かは警護で会場に来ているんだ」
「はい、では行ってまいります」
そう言って、リリアンナ嬢とチャーリー君と共に会場の隅の方へ向かって行った。そちら側を見ると、確かに白いドレスや白い礼服に身を包んだ集団がいた。クラスメートなのだろう。男子がいるのはこの際仕方がない。自分は9歳年上なのだから、小さいことで余裕のないことを言っていたら、フィーネが困るだろう。
「団長、そろそろ顔を出してくださいよ」
副団長のマックスが、会場の外から迎えに来た。今回魔法騎士団が警護するのは主に会場の外だった。許可された者以外入れないように、結界魔法を会場の外にはっていた。王族が参加する夜会は常に警戒が必要だ、かといって会場に警備が多くいては、物々しい雰囲気になってしまい楽しめない。まあ、苦肉の策だ。結界では完全な対策にはならないのだが。
許可された者の中に不審者が紛れ込むこともある、そこは王宮の騎士団が担当だ。煌びやかな騎士服ならば、会場でもそれほど浮かないし、当日参加者として婚約者と紛れ込んでいる者もいる。特に今回はウィリアム殿下のデビュタントに加え、公にされていないが王子妃候補探しも含まれていた。過去3回の婚約破棄で、成人したウィリアム殿下には婚約者が決まっていなかった。両陛下も末王子の婚約者選びに意欲的だった。本人は抵抗しているようだが……ということで、招待された者も多いのだ。
「異常はなかったか、予想以上に入場客が多いように思うが、そのまま結界範囲は維持してくれ」
「はい、結界は大丈夫ですが、入場客が増えたのは外交担当大臣の意向のようです。隣国の貴族令嬢が何名か招待されています。ウィリアム殿下の妃候補が国内で決まらなければ、隣国から探す気のようですね」
「そうか、確かに3回も婚約破棄しているから、国内貴族は警戒しているからな……」
「そうですね、婚約破棄された令嬢3人は今もあまり社交には参加していないようですね。皆さま殿下より年上の方でしたが、まだ次の婚約者が決まってないとも聞きますし……」
「婚約破棄の理由がはっきり公表されていないからな……まあ、次は陛下が破棄をすることはお許しにならないだろうが……」
団員に声をかけようと、さらに外へ出ようとしたその時だった。会場内で悲鳴が上がった。俺はマックスと視線を交わして会場へと駆け戻った。フィーネが中にいるのだ。悲鳴は女性の者が多かった、何が起こった?
「団長、奥です、人だかりができています!」