第66話 断ってはいけませんか?
アレックス様と2回続けて踊ってから、チャーリーと1回踊った。リリーはアレックス様と踊っている。同じ人とは1回まで、婚約者は3回までと決まっているので3回踊っても良かったのだが、まだ慣れない事と、チャーリーとも友人として踊ってみたかったので、今回は事前にそう決めていた。
リリーは、アレックス様と少し緊張して踊っていたようだけど、終わってからこっそり私に囁いた。
「チャーリーとは全然違ったわ。さすがアレックス様、リードが神業!!」
同感だった。先ほどチャーリーと踊ったことによって、いつも踊っているアレックス様が上手いのだと気づけた。さりげないのに、踊りやすい、完璧に女性を引き立てる踊り方が男性には求められると、ダンスの先生が言っていたが、今夜その意味が分かった気がした。
3曲踊ったので、壁際に下がってリリーたちと休憩していると、ざわざわとした音が近づいてきた。音のする方を見ると、ウィリアム殿下がこちらの方に向かって歩いてくるのが見えた。知り合いと歓談していたアレックス様が、騒がしい雰囲気に気づいて私の方へ来てくれた。
「フィーネ嬢、私と踊っていただけますか?」
ウィリアム殿下が、私の前まで来るとスッと手を差し出した。この状況で王子殿下の申し出を断れる令嬢はいないだろう。アレックス様も無言で隣に立っている。無下に出来ない状況なのだ。
「……はい、よろしくお願いいたします」
私は仕方なく殿下の手を取った。殿下の意図がわからず混乱する私を、ウィリアム殿下は満足そうにフロアまでエスコートした。
さすが王族、ウィリアム殿下は見事なダンスの腕前だった。きっと小さい頃から練習していたのだろう。アレックス様とは違うけど、非常に踊りやすかったのだ。でも、婚約者のいる私ではなく、違う令嬢と踊った方がいいのではないかと、ずっと気にしながら踊っていた。
「心ここにあらず、という顔だな」
「え?」
ステップを踏みながら、ウィリアム殿下が私を見た。
「あ、の、そうですね。何故私なのかと思っていました。他に殿下と踊りたい令嬢はおられますから……」
「他の令嬢は私の婚約者になりたいと下心があるからな。特定の誰かと踊ると噂されるだろ、その点君ならアレックス兄様がいるから、変に詮索させず気が楽だ」
「なるほど、そうですね」
そういうことならこちらも身構えなくていいのか、気楽にいこう、そう思ってにっこりと笑うとウィリアム殿下の顔が急に赤くなったので焦った。
「あ、あの?」
「ああ、……先ほど飲んだ酒が急に踊ったのでまわった、少し酔ったようだ……」
「ええ、大丈夫でしょうか?」
「ああ、君と踊りきるくらい、大丈夫だ」
「そうですか、それならばあまり激しく動かないようにしますね。気分が悪くなったら言ってください」
「ああ……そうする」
心配だったが一曲踊り切り、お互いにお辞儀をしてからアレックス様の元に戻った。
「フィーネ、大丈夫だったか?何を話していたんだ」
「いえ、特にはなにも。私と踊ったのは婚約者のいない令嬢だと、変に詮索されるからだとおっしゃっていました。途中でお酒に酔って赤くなっていましたが、問題なさそうでした」