第65話 デビュタントです
陛下の前までは、デビュタントで訪れた親子や、婚約者と共に来た人たちで列ができていた。並んで待っていると、チャーリーにエスコートされたリリーとすれ違った。リリーが小さな声で「後で」と言って通り過ぎて行った。先に挨拶が終わったようだ。私たちの順番が来たので、アレックス様のエスコートでゆっくり進み出る。
「アレックス、この子が君の婚約者のフィーネ嬢か?」
陛下が嬉しそうに聞いてこられた。私はスッと前に出た。
「スミス子爵家のフィーネと申します。今宵デビュタントを迎えました。よろしくお願い申し上げます」
何度も練習した通り、陛下の前で淑女の礼をした。
「ほう、美しい娘さんだね。デビュタントおめでとう。今宵からは成人貴族として社交も頑張ってくれ」
「はい、努力させていただきます」
アレックス様に言われた通り、優しそうな方だった。順番を待っている人がまだいるので、素早くさがった。
「上手だったよフィーネ。すっかり淑女になったね。挨拶の列が終わったら、ダンスの時間だ。それまでに何か飲んでおくかい?」
「はい、喉がカラカラです」
「緊張したんだね。まあ、次はプライベートでお会いしよう。そのうち慣れるよ」
アレックス様はとんでもないことをさらっと言いながら、給仕から自分のシャンパンと私用の果実水をとって渡してくれた。
「おっと、成人したのだからお酒でも良かったのかな?」
「いえ、飲んだら踊れる自信がありません。果実水がいいです」
15歳になってお酒を何度か飲んだが、私にはまだ美味しく感じられなかったし、すぐにふわふわとするので、こんなところで飲んでしまったら、きっといろいろと失敗しそうだ。
喉を潤した後、リリーたちと合流して歓談していると、楽器を抱えた人たちが次々と入場してきた。陛下が成人の祝いの言葉と、第三王子ウィリアム殿下のデビュタントであることも併せておっしゃり、会場中から拍手が起こった。陛下は嬉しそうに頷き、楽団の人に手をあげ演奏が始まった。
「行こう、フィーネ。一曲目はデビュタントした人とそのパートナーが踊るんだ」
嬉しそうに手を差し伸べ、アレックス様がフロアの中心までエスコートしてくれる。リリーたちも一緒にフロアへ出る。チャーリーは少し顔が引きつっているが、ダンスが苦手だと言っていたので緊張しているのだろう。
アレックス様の完璧なリードで落ち着いて踊りだせた。忙しい中アレックス様が出来るだけダンスの練習に付き合ってくれたおかげで、息はピッタリだ。
会場中が白いドレスでいっぱいになり、くるくると踊り出す光景は夢のように綺麗だった。みんなこの日のために、白いドレスを用意する理由がわかったような気がした。勿論男子も白色だ。今夜白を身に着けた者がデビュタントという印になるのだ。大人たちは積極的に、白い服装の者に声をかける。社交の第一歩となるための暗黙の習慣なのだそうだ。
踊りながら視線を向けると、同じく踊っているウィリアム殿下と目が合った。少し緊張が走ったのをアレックス様が気づいたのか声をかけられた。
「フィーネ、どうした?」
「いえ、ウィリアム殿下と目が合ったような気がしたので……パートナーの方は、」
「今日は、遠い親戚にあたるブレス侯爵家からミネルバ嬢がお相手をされているね。同じ15歳だし、幼馴染だったはずだ」
ウィリアム殿下には婚約者はいないとリリーが言っていた。過去に3度ほど婚約者が決められたが、1年もたたないうちに殿下の方から婚約破棄されたそうで、ここ2年は怖くて誰も候補にあがっていないそうだ。