第63話 気をつけましょう
アレックス様が突然現れて、少し驚いたがそのお陰で涙も引っ込んだ。ウィリアム殿下は短く謝罪してどこかへ行ってしまった。結局何が言いたかったのか、何をしに来たのかよく分からなかった。
「フィーネは、ウィリアム殿下と知り合いだったのかい?」
「いえ、知り合いではないです。昨日偶然会いました。……癒しの力を使っているところを見られてしまったのですが、光魔法だと言ったらそう思ってくれたようなので、大丈夫だとは思いますが……」
「そうか……フィーネ、ウィリアム殿下には気をつけてくれ。唯一、君と婚約していることの障害になり得るお方だ。もしもバレてしまったら婚約を覆されるかもしれない。勿論守ってみせるが……」
「はい、気をつけます」
アレックス様は私を安心させるように、優しく微笑んだ。
『なあフィーネ、今日はまる焼きが食べたいんや。こんだけ我慢したんや、屋台に寄ってくれるやんな』
ずっと黙っていたチルチルが頭の上でバタバタと動いた。我慢の限界のようだ……
「うん、勿論。帰りに寄って帰ろうね。私もなんだか沢山食べたい気分だよ!」
アレックス様は学園長に呼ばれているようなので、私たちはその場で別れ、チルチルと屋台で食べ物を沢山買い込んでから帰宅した。モヤモヤとした気分だったので、やけ食いしたかったのだ。
「アレックス様に相応しくないことくらい分かってるわよ……貧相って何よ!!本当に失礼過ぎるでしょ!!」
『おい、わいにからまんといてぇや。わいやって不細工いわれてんで、なんやあの王子、腹立つわ』
かなりの量を間食して、その後夕飯を食べられなくなった私とチルチルは、母にお小言をくらってしまった。これも全部ウィリアム殿下のせいだ。私は全力でウィリアム殿下を避けようと心に誓った。
それから、少したって私は15歳になった。アレックス様はデビュタントでつけるアクセサリーを一式プレゼントしてくれた。アレックス様の瞳の色と同じ、サファイアのネックレスとイヤリングだ。アクセントにダイヤを散りばめた可愛らしい花が重なるようなデザインになっていた。
「ありがとうございます、アレックス様。大切にします」
「きっと可愛いフィーネに似合うと思う。私の瞳の色で、君の髪色にもよく似ている」
『わいの色やな』
「……」
「ドレスも母様が気合を入れて最終段階まで仕上がっているよ。きっとそれをつけて、ドレスを着た君は一番素敵なはずだよ、そこの鳥さえいなければ、最高なんだけど……」
『さすがにそん時は宝石に戻ったるで。そやな、髪飾りにでも化けといたる』
「え?そんなことが出来るの?」
『おう、まかせとけ。わいに出来んことはない』
「それならば、いつもそうしておいてくれ」
『そんなんいやや。この姿が可愛くてええやん』
ポンとお腹を突き出して、自信たっぷりだ。アレックス様が嫌そうな顔をしたが、ここで機嫌を損ねて舞踏会当日髪飾りになってくれないと困るので、ぐっと我慢しているようだ。
今回の舞踏会は、ウィリアム殿下の成人の祝いも兼ねているので、いつもの規模よりも大きいものとなるそうだ。ダンスの練習もしているが、まだ軽やかに踊ることは苦手だった。手を取り合って、密着して踊ることに慣れなくて、兎に角恥ずかしいのだ。