第60話 使い魔です
チルチルは私の頭からチョンと肩に飛び乗った。
『はぁ?誰が不細工なヒヨコや、可愛い可愛い小鳥さんやないかい!』
「ヒヨコが……喋った、だと?」
「あーっ違います!この子は使い魔で、インコの仲間なので真似して喋るのが得意なんです!!」
私は今にも反論しそうなチルチルの嘴をおさえて、小声で囁いた。
「チルチル、お願い。喋っては駄目、帰りに屋台で何でも買ってあげるから、今は私に合わせて」
「真似、今のが?」
「はいそうです。チルチル、可愛い」
私がそう言うと、チルチルも同じように繰り返した。
『チルチル、かわいい』
『チルチル、てんさい、チルチル、さいこう』
「……続けて言っているが?」
「それは、前に……教えたもので、いくつか言葉も覚えています!」
「そうか、芸達者なヒヨコだな」
そう言って、ウィリアム殿下は去って行った。その背中が見えなくなると、わなわなと震えるチルチルが大声で叫んだ。
『誰がヒヨコじゃボケ~!!今度言うたら飛び蹴りしたる~!!』
口の悪い鳥である。私は約束通り帰宅途中に屋台へ寄って、チルチルの好きなものを買うことにした。屋台の食べ物の中には、聖女サキ様が考案した食べ物がいくつかあるそうだ。
異世界から来たサキ様が食べたかったものを再現したらしい。チーズが中に入ったまる焼き、野菜と肉を卵と粉で混ぜて焼いた粉焼き、そしてクレープだ。
まる焼きは、タコという生物を入れるそうだが、この世界にタコという生物が見つからず、代用でチーズを入れて丸い形に焼いたものだ。こちらに来た聖女サキ様は、最後まで元の世界へ帰りたいと思っていたそうだ。残念ながら1000年前に聖女サキ様が書いた日記は、異世界の言葉で書かれており読むことが出来なかった。200年前に書かれたサーラ様の日記は愚痴ばっかりだったし……私がそう言うと
『ああ、あの聖女、一回会ったで。寝ぼけて偶然宝石にキスしたんや。そん時、元婚約者を呪いたいとか、禿げさせる方法を教えろとか、物騒な事ばっかり言いよったから、そっこー宝石に戻ったったわ。後はずっと無視や』
「ああ……なるほど、ミラ様の言っていた200年前に精霊が現れたというのはそれね。私は日記で読んだよ、元婚約者に禿げろって書いてあった」
『そや、そんな鳥の羽むしるような行為、怖すぎてさぶイボ出たわ』
「さぶイボ?」
『ああ、鳥肌のことや。さぶいと出るやんブツブツのイボみたいなやつ。鳥が鳥肌って変やろ、だからサキの言い方でゆうてんねん』
「なるほど、深いような深くないような?」
『そこは別にボケてへんで』
チルチルは屋台の前で悩んだ末に、クレープを買うことに決めたようだ。
『早よ帰ろ。ここじゃ食べられへんわ』
急いで帰宅すると、庭のベンチの前でチルチルはポンッと大きくなった。いつ見ても大きくなると綺麗な鳥だ。小さくなると、何故かヒヨコのような丸いフォルムになってしまうが……