第59話 使い魔みたいなものです
今にも飛び蹴りをしそうなチルチルを止めながら、私は大まかな説明をした。
「なるほど、精霊なのね。勿論秘密にするわ。でも、髪色が似ていてもやっぱり目立っているわ……それならば使い魔として学園に申請した方が自然かもね。変に隠すより堂々と連れて歩けるし。ほら、結構いるでしょ?」
そう言って、リリーは中庭の方を指さした。そこには確かに猫型の魔物や犬型の魔物を連れて歩く生徒がいた。やけに動物が多いと思っていたが、それらは使い魔だったらしい。学園に連れてこられる使い魔は、契約魔法で使役しているものに限るらしい。契約魔法にはいくつか種類があるが、学園推奨のものとしては、契約の赤い糸や血の契約があるらしい。偶然なのか、これを見越してなのか、ミラ様は私とチルチルを契約の赤い糸で結び付けていた。
「ありがとう。早速申請しておくよ」
「それと、使い魔は喋る子もいるけど、大抵は無口だから気をつけて。あまり喋り過ぎると疑う人も出てくるかもしれないわ」
「わかった。チルチル、お願いよ。気をつけてね」
『しゃーないな』
「……それにしても、変わった話し方よね」
放課後、学園に使い魔登録の申請をして、無事チルチルは使い魔として認められた。足には使い魔を証明する特殊なリボンが付いている。使い魔の中には姿を変える子もいるので、リボンも大きさが変化するようになっているそうだ。
『なんか嫌やけど、しゃーないな』
足をフリフリしながら、不貞腐れている姿は可愛いヒヨコだ。まさかこの鳥が精霊だとは誰も思うまい。
「ごめんね。でもそのリボン似合っているよ」
チルチルは褒められたのが嬉しいのか、少しだけ機嫌がよくなった。
『……』
「どうしたの?何かあった?」
チルチルが中庭の向こうにある林をじっと見ている。
『怪我した動物がおる、こっちや』
チルチルの後を追って林の方へ走った。中庭を少し奥に入ったところだ。そこに怪我したウサギが動けずにいた。足から血が出ていて、かなり痛そうだ。
「大丈夫よ、すぐに癒すから怖がらずにじっとしていてね」
私はウサギの横に膝をつき、ゆっくりと手をかざした。光が優しく降り注ぐ。怪我が治ったウサギはすぐに森へ逃げていった。
「お前、聖女なのか?」
後ろから声がして、慌てて振り向くとそこには第三王子のウィリアム殿下が立っていた。入学式の時に見かけて以来、彼とは関わることが無かったがこんなところで見られるなんて……
「あ、あの、これは光魔法の治癒です!聖女なんてそんな、とんでもないです」
ウィリアム殿下は、少し怪しく思いながらも納得してくれた様子だ。
「そうか……そうだな、こんなところに聖女はいないか」
『騙されんのかい』
チルチルが私の頭の上で小さく呟いた。ウィリアム殿下がチルチルを見た。
「ん?お前、不細工なヒヨコなんて頭に乗せて、どうしたんだ?」