第58話 隠れていません
「ありがとうございます。実は風魔法のコツがうまくつかめなくて、いつも暴発しそうになるんです。次の試験までにコツがつかみたいんですが……」
アレックス様は少し考えてから微笑んだ。
「じゃあ、私が学園に指導に行く日に、放課後少しだがコツを教えようか。実際にやりながらの方が、指導し易いし、暴発するなら防護魔法がかかっている学園の施設の方が安全だから」
「放課後ですか?」
「明後日、指導日だから、その日に補習用の練習場を押さえておくよ。フィーネには留年せずに2年で卒業して欲しいからね」
「あ、あの、はい……」
2年で卒業……アレックス様は私が3年の専門課程を志望せずに卒業すると思っている。この時私はその事に違和感を覚えた。好きな魔法を沢山学びたい、出来れば専門課程を終えて王宮魔術師か、街の魔法関係の仕事をしてみたい。元々平民だった私には、貞淑な妻、家にいる奥様になっている自分が想像できなかった。
でもそれを言い出す勇気がなかった。私程度の魔法使いなんて掃いて捨てるほどいるだろう。烏滸がましい希望に思えて、喉の奥がつまってしまったように声が出なかった。
「フィーネ、どうした、何か気になることが?」
「え、いえ、大丈夫です。明後日よろしくお願いします」
「ああ、じゃあ私は騎士団の方へ顔を出すから行くけど、フィーネも気をつけて登校するんだよ……」
アレックス様は手を伸ばしかけて止め、そう言って行ってしまった。見送りながら私は思わず、はぁーとため息をついた。
『なんや、またため息ついとんのか?幸せが逃げるで~』
チルチルの声が頭の上から聞こえた。そういえば、ずっと髪の中に埋もれたままだった……そうか、それで先ほどアレックス様は手を頭に伸ばしかけて手を止めたんだ……頭をポンポンとされるのが小さい頃からの習慣だった。きっとまだ子供扱いされているんだろう。
「ねえ、チルチルは学園について来るのに、ずっと頭の上に乗っているの?」
『なんや、気になるんか?大丈夫やで、髪と同じ色なんやし分からんて』
チルチルの言ったことを信じたわけではなかったが、実際チルチルがいないとダメなのは私の方なので、隠れて欲しいとか、宝石に戻って欲しいとは言えなかった。
「おはよう、フィーネ。あの、聞きにくいことを聞いていいかしら?その、頭の上のは…?」
リリーが頭を指さして、チルチルを見ていた。そうですよね、ここに来るまでも聞かれることはなかったが、明らかに皆さんの視線が頭上に釘付けになっていることはわかっていた。
『なんや、ねぇちゃん指差すなんて失礼やんか』
喋ってしまっていますよ。学園に来る前に喋るのは禁止って言ったのに……
「チルチル、しーっっ!!」
「あら、使い魔なの?」
「使い魔??魔法契約で魔物を使役する?」
「そう、それよ。学生規則にも載っているけれど、確か1匹なら申請をしたら一緒に登校できるはずよ。違うの?
あまりヒヨコは使い魔にしないけど……」
『誰がヒヨコやねん!』
「あ~ダメよ、チルチル。あの、リリーとりあえず説明する!鳥、チルチルは鳥だから、そこ重要なところね」