第57話 細かいことは気にしたら負けです
満足そうに私の髪に埋まったチルチルを皆が見た。
「小さくなった……食べたものはどうなっているんだ??」
『そんな細かいこと気にしたらあかんで。何とかなってんねんから、ええやんか』
大きくなって食べたものが、すぐに小さくなったら出てきそうだ。常識は精霊には通じないようだ。チルチルは満足したのか、また眠そうにしている。
「さあ、皆さまどうぞおかけになってください。お料理が冷めないうちにどうぞ」
母に促されて、皆で席に着いた。それぞれが好みのお酒を手に乾杯をした。ロンと私は未成年なので、果実水で乾杯した。それを見てアレックス様がため息をついた。
「アレックス様?どうしたんですか?」
「いや、フィーネはまだお酒が飲めない年だったと、今更ながら気づいてしまったんだ」
「えっと、そうですね……この国では15歳が成人ですね」
「ああ、そうだね。もうすぐ君も成人だね。デビュタントの準備もして、その場で私の婚約者だと堂々と紹介できる。楽しみだね」
ミラ様がこちらを見て微笑んだ。
「デビュタントかぁ。私は貴族じゃなかったからそういうの経験ないな。舞踏会も勿論参加してないし、楽しそうだね~アレックスの邪魔しに行こうかしら?フィーネのドレス姿も見てみたいし」
「お、お婆様、明日旅立つんですよね。心置きなくとっとと出ていってください!」
「え~アレックス、お婆様は禁止よ~ミラと呼んで。本気にしなくていいわよ。ちゃんと明日出るわよ~」
「ママ……」
「アーサー、大丈夫よ。何かあったらすぐに転移魔法で帰って来るからね」
皆で楽しく送別会をした後、私のデビュタントの準備を公爵家ですることが決まり、ドレスをどうするかミラ様とマリアンナ様、母で楽しそうに盛り上がっていた。アレックス様が希望を言おうとして、即却下をされていたのは少し気の毒だったけど、ワイワイと気取らない楽しい食事会だったと思う。
そして翌日、皆さんに見送られてミラ様とセイ様は旅立って行ったのだ。慣れない旅に緊張気味のセイ様を、楽しそうにミラ様が引っ張って行った。きっと旅の間中こんな感じなんだろうな、と思った。
「そういえば、昨日最後にミラ様と何を話していたんですか?」
ミラ様たちを見送りながら、アレックス様に聞いた。昨日最後に二人でコソコソと話し込んでいたのが、少し気になっていたのだ。
「ああ、大したことじゃないさ。あの学園で戦った時に、お婆様が手を抜いていたんじゃないかと思って、それを確かめていた。結局はぐらかされて教えてくれなかったけど、きっとそうなんだろうと思うよ。まあ、俺もまだまだ努力が必要なんだよ」
「そうですか、アレックス様がまだまだだなんて学園のみんなに言ったら、みんな勉強意欲失くしちゃうと思いますが……」
学園一の魔法使い、そう言われているアレックス様がまだまだ努力がいるなんて、今学園にいる生徒はどれ程頑張ったらアレックス様に届くんだろ……戦意喪失案件だ。大きすぎる目標は、逆に諦めてしまいそうだ。風魔法を上手く扱えない私も、同じ魔術師として嫉妬を感じる、それすらおこがましい存在だ。
「そうか、高い目標は確かに目指しにくいかもしれない、でも足掻くのも悪くない経験だよ。フィーネが困っているなら指導するからね。どんどん頼って欲しい」