第52話 チルチルとアレックス様
「恋の悩み?それ以前の問題かも……私がアレックス様に会ったのは4歳の時で、恋とかそんな気持ち知らないから、ずっと絵本の王子様みたいに憧れの存在で、なのに14歳の私はアレックス様が私を好きだと知って嬉しかったの。でも、嬉しいにも色んな感情があるよね?憧れの人なんだもん、嬉しいに決まってる。でも、ミラ様とセイ様を見ていたら、好きってこういう事なんじゃって、そう考えたら自分の気持ちに自信が持てないの……」
『4歳ってそんな小さい時からかいな。そりゃしゃーないわ。ずっと見てきたんやろ?いきなり14歳になったから恋愛しろって、そんなん無理や。ゆっくりでええねんで』
「……」
見た目青いヒヨコが、なんて的確な恋愛のアドバイスを……
『なんや?どうしたんや』
「あ、ごめん。なんか恋愛相談に慣れてる?と思って……」
『サキとレンブランの恋愛相談に、いやってほどつき合わされたんや。ほんま勘弁して欲しいわ。まあ今となったらそれもええ思い出やな』
チルチルは懐かしそうに目を閉じた。きっとサキ様とレンブラン様を思い出しているのだろう。サキ様が亡くなって1000年宝石の中で寝ていたと言っていた。折角また目覚めたのだ、この世界を楽しんで欲しいと思った。
コンコンと扉がなった。チルチルは私の髪の中に埋まった。
「フィーネ、私だ。入っていいかな?」
『私って誰やねん』
「あ、アレックス様だよ。はい、どうぞ」
「誰かといたのかい?話し声が……って、青いヒヨ……」
私は慌ててアレックス様の口を手でふさいだ。飛び蹴り回避だ。
「あの、チルチルは青い鳥で……精霊です!!」
「鳥……精霊??」
混乱するアレックス様を、チルチルもじっと凝視している。
『……レンブランやないわな……めっちゃ似てるけど、もしかして王族なんか?』
「……父は王弟だから、王族の血は入っているが……精霊は喋れるのだな、変な言葉遣いだが……」
『変とは失礼な奴やな。それにしても、ほんまソックリやないかー』
「レンブランは初代王の名前だな。1000年前の肖像画は保存状態が悪くて、はっきりとした顔がわからないからな……そんなに似ているのか?」
『似てる、金髪碧眼、腹立つほど整ったその顔も、そのままやで。サキは黒髪黒目やった。今でも王族に黒髪はおるんか?』
「いや、最近の王族に黒髪はいないな。かなり前ならいたそうだが」
『そうか、残念やな。この世界にあんな綺麗な黒髪、おらんもんな』
どこか寂しそうにチルチルは呟いた。きっとサキ様の黒髪が好きだったのだろう。
「ところで、その精霊はどうしてフィーネの髪に埋まってるんだ?」
「あ、それはチルチルが乙女の涙で、えーっとキスしたら精霊の姿に戻って、ですね」
「は??キス、だと?フィーネのキス……もしかして初めての……」
『そや、ファーストキッスやな』
アレックス様がピシリと固まった。チルチルは頭の上で見えないが、きっとどや顔だ。
「あの、でもキスしたのは宝石にです!それはファーストキスっていうのですか??」