第4話 トルカーナ魔法学園に通いたいです
王都には、4つの高等部にあたる学園がある。ひとつは私が当初通う予定だったマリアンヌ女学園。貴族の子女が通う由緒正しきお嬢様学校だ。貴族以外にも富裕層のお嬢様が通うそうで、授業料さえ払えれば平民も通える。そして男子校のジュリア学園と共学のミズリー学園。ミズリー学園は王都でも屈指の秀才が集まる学校らしい。つまり普通の貴族の子供たちは女学園か男子学園に通うのが一般的だ。
異色なのは、トルカーナ魔法学園だ。その名の通り王都で唯一、魔法の授業がある学園で国中から魔力を持った子供たちが通う。そのため遠方から来る子供のために寮も完備されている。
家族会議で王都へ引っ越すことが決まった時に、マリアンヌ女学園の制服を見た私は、これは違う、と思ったのだ。送られてきた制服は、清楚なお嬢様が着れば似合うかもしれない、薄桃色の生地にフリルがこれでもか、とついたデザインで、これを着て通う自分が想像できなかったのだ。そもそもお嬢様ではない、だからと言って国中の秀才が集まる共学のミズリー学園に入るのは無理がある。
「私、王都に行くならトルカーナ魔法学園に入りたい!!実はずっと憧れていたの。村には魔法を教えてくれる先生がいなかったから、独学で頑張ってみたけど難しくて。王都に行くのも諦めていたけど、引っ越すのなら通うことが出来るよね」
思い切って両親にお願いした。女学園のフリルたっぷりの制服を見て、さすがにうちのフィーネには向いてないと納得した両親は、引っ越しする旨と共に、トルカーナ魔法学園に入学させたいと連絡をしてくれたのだ。
トルカーナ魔法学園に入学するには、魔力はもちろんのこと、推薦状が必要だった。父の上司でもあるスコット侯爵様が推薦状を書いてくださったらしい。そして至れり尽くせりでありがたいことに、アレックス様がトルカーナ魔法学園の制服を贈ってくれたのだ。
アレックス様はトルカーナ魔法学園の卒業生だった。それも学園歴代一の魔法使いで、今は王宮の魔法騎士団の団長をしているのだ。半年前に昇進が決まって、最年少記録で団長になったところだ。忙しくて最近は遊びに来られなかった理由のひとつだ。
入学はすぐに認められ、アレックス様がお祝いにとトルカーナ魔法学園の制服を贈ってくれた。白いベストに同色のスカート。ブラウスは黒色で、ケープタイプの白い上着を羽織る。申し訳ないが、マリアンヌ女学園の制服よりこちらの方が私にはしっくりくる。靴はショートブーツだ。魔法の実習もあるので、動きやすさ重視のデザインだ。腰にはポーチを付けられるようになっていて、魔法薬やポーションをしまうことが出来る仕様になっている。そして送られた制服は、サイズを測ったようにぴったりだった……。
「入学式は、私も来賓として招待されている。当日迎えに行くから一緒に行こう」
「ありがとうございます。アレックス様が一緒なら心強いです」
「……これからゆっくり家の中を案内したいと思っていたんだけど、……どうやら時間切れのようだ……」
アレックス様が項垂れて、ため息をついたとたん玄関のドアがバンッと開いた。
「団長、時間過ぎてます!!今すぐ王宮に戻ってください!!」
「ああ、マックス。わかっているよ」
「おお、フィーネちゃん、ランドレ夫人にロン。お久しぶりです」
「こんにちは、マックス様。副団長就任おめでとうございます。今日からこちらに越してきました。よろしくお願いいたします」
魔法騎士団の副団長のマックス・ビーンズ様は伯爵家の嫡男で、よくアレックス様と一緒に村まで遊びに来てくれていたので、かれこれ8年くらいの付き合いになる。当時6歳の私にアレックス様が公爵家の御令息だと教えてくれた方でもある。秘密にしていた身分をバラされたと、アレックス様が本気でマックス様を魔法で吹っ飛ばしかけたのは、今でも鮮明に覚えている衝撃的な出来事のひとつだ。
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