第48話 アレックス様の懸念
すれ違い様にそう言われて、慌てて頷いた。アレックス様はそれを確認して、私に微笑んで通り過ぎて行った。周りの女生徒がキャーと悲鳴を上げた。相変わらず女生徒に人気があるようだ。表立っての嫌がらせはないが、陰口が大きな声で聞こえてくることが多かった。陰口は大きな声で言ったら意味がないのでは?そう思うが目線が合うことはないので、言い返すことも出来ない。モヤモヤが溜まるのだ。
隣でため息が聞こえた。リリーが女生徒の方を見ていた。
「アレックス様、気づいてないのかしら?気軽に微笑むのは危険なのよ。ますます陰口、いや表立った嫌味かしら?……兎に角一回ちゃんと話した方がいいわよ。今はこれで済んでいるけど、アレックス様が本格的に学園に来たら、本気でアレックス様を好きになる生徒も出てくるかも……立っているだけでモテるなんて、本当迷惑な……これ以上は不敬になるかしら」
「心配してくれてありがとう、リリー。きっと大丈夫だよ。みんな言うだけで、手は出さないよ」
「でも、言われるのだって傷つかないわけではないじゃない……」
私はリリーをぎゅうぎゅうと抱きしめた。心配してくれる心が嬉しかった。確かに最近陰口の内容に傷つくことも多く、少し負担に思っていた……相応しくない、そう言われるたびに自分自身が一番そう思っている、そう言ってしまいそうになった。そんな自分が嫌だったのだ。
「ああ、可愛いフィーネをいじめるなんて、本当信じられない!!」
そう言って抱きしめ返してくれた。リリーからふんわり優しい花の香りがした。
「女同士で何やってるのさ」
ハスキーな声に振り返ると、ノア先輩が立っていた。リリーが小さく舌打ちをした。
「陰口要因がもう一人増えたわ……」
みんなの憧れ、ノア先輩が何故か私をかまうため、アレックス様関連の陰口の他に、ノア先輩関連の陰口が増えていた。リリーは素早く私の手を引くと、急いでいます!と言ってノア先輩から速足で離れた。
「フィーネがノア先輩のことが気になるのなら仕方ないんだけど、そうじゃないなら出来るだけ近づかない方がいいと思うの。露骨に避けるのはよくないけど、ある程度距離を取ってせめて陰口はアレックス様関連だけにしたいのよ」
「うん、そうだね。気をつけて近づかないようにするわ」
午後の授業を終えて帰宅すると、墓参りを終えたミラ様とセイ様が帰って来ていた。
「おかえりなさい、フィーネ。今、話していたのだけど明日発つことにしたわ。思いのほか長くお世話になったわね」
「そうですか、お二人がいなくなるのは寂しいですけど、また会えますよね?」
「ええ、いつでも呼んで頂戴。可愛い孫のお嫁さんですもの。いつでも駆けつけるわよ。これはお守り代わりに持っていて」
そう言ってミラ様は、小さな石の付いたイヤーカフをくれた。
「これ、なんですか?」
「携帯用の護身魔法が付与されているわ。確か3回まで使えたかしら。魔法攻撃も物理的攻撃も3回までなら弾けるわ。昔、なんとなく作ってみたけど、私そんなものなくても強かったから、使う機会が無かったのよ」
「ありがとうございます。お守りとして着けさせてもらいますね」
「ええ、そうして。何もないよりは安心よね。それと、乙女の涙のことなんだけど、この宝石について、何か聞いているかしら?」
私は首から下げていたペンダントに触れて、首を傾げた。何かとは?