第47話 魔法薬の先生
早朝、ミラ様とセイ様は王族の墓地へ向かった。旅立つ前にイザベラ様の墓へ参るためだ。
「私が行ったら、きっと嫌な顔されると思うんだけどね、ずっと気になっていたから、一緒に行ってくるわ」
「それを言うなら、私の方こそ怒られそうだ。もうすぐ彼女の元に行くと思っていたのに、葬儀をしたのに墓に入らず、君と第二の人生を歩むことを報告に行くのだから……きっと更に恨まれそうだ」
セイ様はシュンと肩を落として、アルダール公爵家の馬車までトボトボ歩いて行った。王家の墓に立ち入れる人は限られているので、アルダール公爵様も同行するそうだ。
見送りを終えると、学園の制服に着替えて登校の準備をした。今日は魔法薬の授業がある日だ。ミラーリア・ジョシュア先生が西の魔女として捕らえられ処刑されたため、急遽先週からは新しい講師が赴任した。と言っても急に講師を探すことは出来なかったようで、苦肉の策として、優秀な3年生の先輩が臨時講師として派遣されることとなったらしい。
その講師を私は知っていた。そう、薬草園の天使先輩ことノア・ダントン先輩だ。先週、授業開始前にノア先輩が突然教室に現れた時は、教室中が大騒ぎとなった。女生徒の黄色い悲鳴以外に男子生徒の雄叫びが混じっていたのを聞いた時は、リリーと顔を見合わせてしまった。男女ともに人気のある先輩なのだ。
「おはようフィーネ。今日はみんな冷静に授業が受けられるかしらね」
リリーが魔法薬の本を抱えて心配そうに聞いてきた。先週の授業は生徒が興奮しすぎて、まともな授業にならなかった。ノア先輩も怒っていて、次回こんな様子なら俺は降りる、と言って教室を出ていったのだ。ノア先輩の授業は、とても分かりやすかったので是非このまま教えて欲しいと思っている。
「そうね、ノア先輩の授業、とってもわかりやすかったから、このまま続けて欲しいな」
「そうか、それは嬉しい誉め言葉だ」
後ろから声がして振り向くと、ノア先輩がノートを抱えて後ろに立っていた。相変わらず可愛い先輩である。
「よし、フィーネ。このノート半分持って。今日返却するノートだ」
そう言って、ノートを半分私に渡した。そして残りをリリーに渡した。
「先にみんなに返しておいてくれ、教科書持ってくるのを忘れた。すぐ行くから」
そう言って頭をポンポンとされた。リリーが隣で息をのんだ。ノア先輩は何事も無かったように行ってしまった。リリーがキョロキョロと周りを見て息を吐いた。
「よ、良かった。誰も見てなかったわ……あんなところ見られたら、また目をつけられるじゃない……きっと無自覚なのかもしれないけど、天使先輩、フィーネのこと気に入っているわよね……」
「ええ、それはないよ。きっと手のかかる後輩だと、そう思っているのよ。前にちょっとやらかしたことがあったから、きっとそれで気にかけているのよ」
「まあ、そうだといいけど……」
授業は無事終わった。生徒も辞められたらノア先輩に会えなくなるのだ。動機はどうであれ、授業態度は改善され、ノア先輩は魔法薬の授業を続行してくれることになった。
リリーと次の授業の教室へ移動していると、前からアレックス様が歩いてきた。王都の事件も解決し、学園の事件も解決したため、今日から魔法騎士団による講習が再開されると言っていた。乙女の涙が魂を補ってくれるため、アレックス様と夜一緒にいることは残念ながら無くなってしまった。父のマルクが理由なく夜に一緒に寝ることに難色を示したのだ……抱きしめられて眠る安心感が突然なくなり、最近少し寝不足になっていた。
「フィーネ、今夜そちらに伺うと、マルク殿に伝えておいて。じゃあね」