第46話 似て非なるもの
「どうして父上は落ち込んでいるのでしょうか?」
部屋へ入ってきたアルダール公爵様は、ソファーの端っこで足を抱えて落ち込んでいるセイ様を見て首を傾げた。ミラ様が笑いながら、セイ様を指さした。
「ギルドで冒険者の登録をして、認定証明書が発行されたんだけど、私がSランクだったのに、セイは初級しか貰えなかったのよ。だから拗ねているのよ」
Sランクは、一番強いとされるランクで、確かドラゴンと戦えるほど強いと言われていた。ミラ様は実際一人でドラゴンを倒したと聞いた。文句なしの最上ランクなのだろう。元国王陛下は、前線で戦うことなどしないだろうし、魔法もそこそこのレベルだろう。認定してもらえただけ良かった……という言葉は飲み込んでおいた。これ以上落ち込ませるのは気の毒だった。
「拗ねてなんていない……ただ、ミラの相棒なのに初級だなんて、足手まといじゃないか……」
「あら、そんなの最初から分かっているわ。だから旅をしながら鍛えてあげるのよ。私結構優秀な師匠なのよ」
「……お手柔らかにお願いします……」
シュンと小さくなったまま、セイ様がミラ様に微笑んだ。助けてあげたいオーラが全開だ。一緒に暮らしてみてわかったのだが、セイ様はなかなかの人たらしで、困っていると自然と助けてあげたくなるタイプだった。
ここにいる間に平民の生活に慣れておこうと、市場へ買い出しに行ったことがあった。セイ様一人で買い物をさせようと、ミラ様と二人でこっそり見ていると、買い物の仕方がわからなくて困っているセイ様に、自然と人が集まり、あれこれと世話を焼きだしたのだ。主に女性ばかりが……隣からミラ様の殺気がもれてきた時は、本当に心臓が止まるかと思った。
ミラ様は、頼んでおいた果物を持って嬉しそうに近づいてくるセイ様の顔をつねり上げた。その場はそれで収まってホッとした。つねられた意味が分からないのか、きょとんとした顔で首を傾げたセイ様は、私が見ても庇護欲をそそられたのだ。浮気をしたら消し炭になる……セイ様にその気はなくても、このままじゃホイホイ女性が寄ってきそうだ。前途多難である……
「なるほど、前陛下の周りには特に優秀な方が多く仕えていて、国政が安定していた理由がわかったような気がします」
アルダール公爵様が、ミラ様を見ながら心配そうに言った。きっと宰相を筆頭に、アレクセイ陛下を守る会が出来ていたのだろう。そうやって人心を掌握する、それもまた才能だ。
「そうね、イザベラ様もとても優秀な王妃だったわ。きっとこの人のフォローもしていたのでしょうね。立っているだけで女性が寄ってくるんだから、イザベラ様も気が気じゃなかったでしょうけど」
「顔は似ているのに、アレックス様とは違うのですね」
「ふふ、そうね。セイは陽だまりのような人で、思わず近づきたくなる感じで、アレックスは氷のように綺麗ね。でも近づくと凍りそうだから近寄りがたい」
「なるほど、でもその方が安心ですね」
「そうね、近づいてくる女を蹴散らすなんてフィーネには無理そうね。私は平気だけどね」
「ママ、物騒な顔で微笑まないでください……父上も自覚をしてください。このままだとすぐに消し炭になってしまう」
「大丈夫だよ。私が愛しているのはミラだけだから」
にこにこ微笑んでいるセイ様は、ぜんぜん大丈夫そうに見えなかった……アルダール公爵様が諦めたように嘆息した。アレックス様が私の方へ寄ってきた。
「もしかしてフィーネはお爺様のような方がいいのか?同じ顔なのだから、努力したら出来るかもしれないが」
私は慌てて首を横に振った。常に女性に囲まれるアレックス様を想像しただけで不安になった。
読んでいただきありがとうございます。
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「西の魔女の弟子 ~魔女になる予定が、拾った王子に溺愛されてしまいました~」も投稿しています。ミラ様の弟子のお話です。6話完結なので、良かったらのぞいてみてください。