第45話 魔女は高らかに笑う
午後の日差しが、柔らかく窓辺に注ぐ中、優雅にお茶のティーカップを持ち上げると、ゆっくりと口をつけたセイ様は、はぁーと息を吐き出し、口をひらいた。
「いや~あの時ミラが大声で笑いだして本当に焦ったよ。ああいう演出をするなら、最初から言っておいて欲しかった」
隣に座るミラ様を見ながらそう言った。ミラ様はにやりと笑った。
「あら、あれくらいしないとね。最強最悪の西の魔女の死に様なのよ~」
ミラ様もお茶を飲み、のどを潤すと並んでいるクッキーを一枚とって口にほり込んだ。
「ん~フィーネの作るクッキー、相変わらず美味しいわね。旅立つ前にレシピ聞いとこうかしら」
そう言ってもう一枚クッキーを手に取った。すっかりくつろいでいるが、まさかこの人が今朝処刑台に上っていた人物だとは誰も思うまい……
日が高くなる前に刑は執行された。処刑台に縛られたミラーリアは、火がつけられる前に会場中に響き渡るような大声で笑った。一瞬火を持った執行官が躊躇するほど、長く大きな声で笑い続けた。笑い声は、火がつけられてからも長く続いた。その場にいる人々は、戦々恐々としながらその場に立ち続けた。火が体全体を覆って、魔女の姿が見えなくなっても、その声は暫く続いた。事情を知っている陛下やアレックス様も不安になってきた頃、ようやく笑い声が消えた。会場にいる人々は一斉に息を吐きだした。みんな息をのんで様子をうかがっていたようだ。
無事刑は執行されたと執行官から宣言され、陛下とアレックス様も退場した。セイ様は不安そうに私たちと家に戻って来た。そこにはすでに綺麗なドレスに着替えたミラ様の姿があった。
セイ様は走り寄ってミラ様に抱きついた。困ったような顔でミラ様はセイ様の背中をさすっている。ようやく二人は全てのことから解放されたのだ。
アルダール公爵様は、母親の姿を見て安心して仕事に戻っていった。私たちは落ち着くために、居間でお茶をすることにしたのだ。
「いつ旅立つのですか?」
「そうねぇ、冒険者ギルドで登録をして、資格認定を受けるでしょ、それが終わったらいつでも出発できるわ。それまでもう少しここにいさせてね」
「はい、勿論です。ゆっくりしてください。アルダール公爵様もまた来るとおっしゃいました。親子水入らずでこれまでのこと、いっぱい話してから行ってください。あの、それでミラ様はもう魔女ではないのですか?」
「う~ん、黒魔術が使えるのが魔女というなら、今も魔女ね。でも、西の魔女は処刑されたし……でも、私にも弟子がいたから、きっとそのうちまた西の魔女は復活するわね。名を継げば、その時魔女として認められるから、その時が来たら弟子に会いに行かなくちゃ。弟子には申し訳ないけど、それまでは死んだことにしておくわ」
魔女になると子供ができにくいそうで、大体の魔女は魔力の高い子を見つけてきて弟子にするそうだ。奇跡的に子供が出来れば、その子が次の魔女になる。魔女は自分の知っている黒魔術を弟子に教え、時が来たら弟子に名前を譲って、終の棲家を探す旅に出るそうだ。前の西の魔女は、弟子を事故で亡くし、年老いても西の魔女でいた。偶然出会ったミラーリア様を見込んで、黒魔術を教え、最速で名を譲られたそうだ。
ミラーリア様は全属性を持っているそうで、同じく全属性を持つアレックス様は、間違いなくミラーリア様に似たのだろう。そこに黒魔術が加われば、それこそ最強だろう。
数日後、無事冒険者のギルドに登録を完了したと、ミラ様から報告を受けたアレックス様がアルダール公爵様と共にやって来た。