第43話 不老になりました
アレックス様が驚いた様子で、ミラーリア様を見た。
「あら、不死ではないわ。死なないなんてそれは最早人間じゃないわ。化け物になるなんて本意じゃないから、あえて不死の研究はしてないの。この不老の魔術も永遠じゃないのよ。何年かに一度は、今みたいに魔石に魔法陣を描いて呪文、それで補わないと一気に老化するの。この魔術のいいところは、死ぬことを選べるの、不死にしてしまったら永遠に死ねないのよ」
「では、その不老の魔術も繰り返せば、不死に近づくのか?」
「そんなに万能ではないわ。自分の持っている寿命が少しは伸びるけど永遠ではないし、病気やケガで死ぬわ。まあ、大怪我でなかったら魔法薬で治せるから、滅多には死なないでしょうけど。それにしても……」
隣り合ったアレックス様とアレクセイ前陛下は、こうして見ると本当によく似ていた。ミラーリア様もそう思ったのか思案顔だ。
「ややこしいわね。それにここまで似ていると、魔法騎士団の団長だと知っている人に変な誤解を与えそうね。アレクセイは自分の色にこだわりってあるかしら?」
ミラーリア様はそう言って、自分の髪を引っ張った。
「色かい?特に気にしたことは無かったな?」
「そう、では私の色とあなたの色を交換しましょう。一度金髪になってみたかったのよ。ついでに目の色もね。これでかなり印象が変わるでしょ?私も変えておきたいしそうしましょう」
何やら地面に魔法陣をサラサラと描き終えると、ミラーリア様はアレクセイ前陛下と一緒に魔法陣の中心に立った。呪文を唱えると魔法陣が一瞬輝き、次に見るとそこには、金髪碧眼の美女とグレーの髪色で紫の瞳の少しミステリアスな美男子が立っていた。
「ふふ、成功ね。なかなかその色も似合っているわね」
「君は金髪碧眼が似合うね。益々美しいよ」
嬉しそうにミラーリア様に抱きつく。本当に愛しているのだろう。見ている方は照れるけど……
「ああ、もう、はいはい。それで、ここまでして今更だけど、今言った計画でいいのかしら?」
アレックス様とアルダール公爵様が顔を見合わせた。アレックス様はガシガシと頭をかきながら嘆息した。
「本当に今更だ。ここまでしたらそうするしかないだろう」
「ふふ、ありがとう。罪状は15年前の侯爵家息女フィオリーナの殺害指示、王都で起こった暴動、学園で起こった暴動。実は前陛下に黒魔術をかけ、愛人になっていた上、宝物殿を破壊して宝石を強奪。でいいかしら」
「え、それは事実と違うじゃないか……」
アレクセイ前陛下は、焦ってそう言った。
「どうせ処刑されるんですもの。罪は全て悪い魔女のせいにしたらいいのよ。華々しい罪状の方が盛り上がるし、今更犯人はイザベラ様でしたって、娘のキャサリン様に言えないでしょう?娘を失っただけで十分悲しいのに、そんなことしたら心が壊れてしまうわ」
アルダール公爵様とアレックス様は当時を思い出したのか、複雑な顔をして頷いた。
「君はイザベラの罪も、プライドも守ってくれるんだね。ありがとう」
アレクセイ前陛下は、申し訳なさそうに頭を下げた。
「そんな大した理由じゃないわ。婚姻が決まった時、全力であなたから逃げ出せなかった私のせめてもの罪滅ぼしよ。さあ、そうと決まったらアレクセイの遺体を作らないとね。アレクセイ、髪を何本か頂戴」
そう言ってさらさらと魔法陣を描いていき、その中に貰った髪を数本置いた。魔法陣に手をついて呪文を呟くと、黒いモヤが立ちのぼった。やがてモヤが消えると、そこに前陛下が横たわって現れた。
「え?私がいるね」