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第39話 アレクセイの後悔①

「ああ、そうだな。その前に老い先短い私の懺悔も聞いてくれるかい。その方が、この一連の事件が最低な私のせいだと……分かるはずだから」


 第一王子だった私は、10歳の頃にサンテ公爵家のイザベラと婚約した。当時イザベラは5歳だった。

 幼かった私たちはお互い、特に恋愛感情などなく、あくまで政治的に組まれた政略的な婚約だった。

 24歳になった私は、相変わらずイザベラに対して恋愛感情を持つことが出来ずにいた。上位貴族令嬢のイザベラは、プライドが高く、高慢に思える部分があって夜会に一緒に参加しても、自分は将来王妃だ、アレクセイ様は私のものだと言っていた。そういうところが気になってしまって、益々気持ちが離れていった。……あの時にちゃんと自分の気持ちを伝えて歩み寄れれば、このようなことにならなかったのかもしれない。

 

 薬草園に見学に行ったのは、ただの偶然だった。夜会に行く度に疲れていたから、気分転換のつもりだった。そこで一人の女性に目がいった。王宮魔術師だった。平民出身の彼女は、気取ったところがなく見ていて新鮮だった。ついつい目で追いかけていた。そんな私に気づくことなく、一生懸命仕事をする姿も好感が持てた。そして、次の日も足が薬草園に向いていた。気づけば何度も通っていた。でも彼女は私のことを気にとめてくれない。その頃には彼女に好意を持っていた。意識して欲しくて、薔薇の花束を贈って次の日に告白した。

 しかし彼女は交際を断った。それはそうだろう、私には婚約者がいるのだ。でも諦めることは出来なかった。イザベラとはいずれ婚約破棄すると言って、何度目かの告白でミラーリアは告白を受け入れてくれた。天にも昇る気持ちだった。絶対に婚約破棄して、彼女と結婚したいと思っていた。

 彼女と交際して1年が過ぎた頃、隣国との小競り合いが激化しだした。国境沿いにある鉱山の所有権をめぐって、何年かに一度問題が起こっていたが、いつもはお互いの国の代表が話し合って落ち着いていた。今回は戦争も辞さない構えで、王宮も慌ただしかった。

 そんな中、隣国が王女の輿入れを打診してきた。王宮の議会は紛糾した。会議を重ねた結果、王女の輿入れは断り、小さい頃から婚約者だったイザベラと至急婚姻することが決まった。不穏な動きをする隣国の王女と婚姻を結ぶより、国内の結束を図ることが重要という結論で議会が一致したからだ。王太子としてこの結論を覆して、ミラーリアの手を取ることは流石にできなかった。

 イザベラと婚姻するとミラーリアに伝えると、彼女は別れると言った。当然だ、結婚すればミラーリアは公然の愛人扱いだ。でも、結局私の我儘で彼女の手を離すことが出来なかった。婚姻当日の夜、イザベラの部屋へ向かいながら、きっと今夜は無理だろうと予想していた。結果は予想を裏切った。

 自分のことながら呆れて、ミラーリアに裏切りだと責めて欲しくて打ち明けると、彼女は笑いながら、世継ぎの心配がなくなって良かった。自分のせいで国に跡継ぎがいないなんて気が重いわ。と言った。

 義務だと自分に言い訳をして、月に何度かはイザベラの元へ通った。半年が過ぎたころ、イザベラの懐妊を知らされた。私は安定するまでは内密にするよう、箝口令を徹底した。そのこと自体は珍しいものではなかった。ただ、今回そうしたのは、懐妊を知ったミラーリアが、今度こそ私の元を離れることが怖かったからだ。

 安定期に入り6か月目、流石にこれ以上懐妊発表を遅らせることは出来なかった。発表後のミラーリアの様子が気になって、注意深く観察してあることに気がついた。ここ最近体調がすぐれないようで、食べたものを吐くこともあった。そこで既視感を覚えた。妊娠初期のイザベラが、同じような症状だった。

 ミラーリアのお腹に自分の子がいる、その時自分が感じたのは心からの喜びだった。本当に最低だが、イザベラの懐妊を知った時の自分が最初に感じたのは焦りだった。ミラーリアに知られたら困る。そう思ったのだ。

 最近、ミラーリアはコソコソと身の回りを整理しだした。きっとこのまま私の前から姿を消すのだろう。私は私財の宝石数点と、国宝の乙女の涙を彼女に渡した。生まれてくる我が子へのせめてもの贈り物だった。


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