第36話 西の魔女の正体
「そして、私が攫うように指示した男は、何者かの黒魔術で操られてあなたたちを襲った。誰がしたのか調べる前に、男は殺された……でも、何故かあなたたちは入れ替わっていて、あなたではなく小さな聖女が殺された。西の魔女が犯人として有力候補になったが、行方不明のまま捜査は打ち切られた。以上」
そう言って、ミラーリア様はすっかり冷めてしまったお茶を飲んだ。
アレックス様と私は終始無言で聞いていた。その話が本当なら、ミラーリア様はアルダール公爵のお母様で、アレックス様のお婆様になる。
「つまり、あなたは私のお婆様ということか?」
「いや~お婆様だなんて、一気に老けるわ~孫にはミラーリアちゃんと読んで欲しかったのよ~。まあ、大きくなったあなたに呼ばれるのは、抵抗があるわね……」
「……」
「まだ信じられないか。そうよね、私もさらっと話したけど、結構大変な目にあっているのよ。何度も命を狙われて殺されそうになったしね。まあ、心当たりが有るから仕方ないけど……」
「そうか……父が俺の魔力が高いのは、祖母の魔力が高いからだと言っていたが、イザベラお婆様の魔力はそんなに高くないんだ。子供の時に聞いた話だったから、聞き間違ったのだと思っていたが……そうか」
そう言うと、転移魔法を使って消えた。
「何?あの子どうしたのかしら??」
ミラーリア様が驚いている間に、アレックス様が戻って来た。隣に誰かを連れている……
「あ、アルダール公爵様……」
「……アーサー……?」
「~はあ??なんでママがいるのだ?私も死ぬのか……??」
目をゴシゴシとこすって、何度もミラーリア様とアレックス様を見ている。きっと幼い頃に別れた母そのものの姿なのだ。混乱する気持ちもわかる。
「父様。何故死ぬんだ?」
「いや、最近前陛下にお会いしたのだが、白昼夢で亡くなった愛する女性が会いに来たから,自分はもう長くないのだろうとおっしゃっていたから……」
「はあ??私が会いに行ったのを白昼夢だと?あのくそジジイ、ボケてるの??」
「前陛下は80歳だが、ボケていない。前陛下も私も母は事故にあって死んだと言われたんだ。だから王宮で育てるのだと……イザベラ様に……」
「そう、あなたを攫わせたのは、イザベラ様だったのね。アレクセイが攫ったのかと思ったわ。イザベラ様はあなたを可愛がってくれた?」
「ああ、兄様や妹のキャサリンと区別なく愛してくださったと思う」
「そう、よかった……」
ミラーリア様は何かをじっと考えていた。
「もう一度、アレクセイに会わないとダメね。王宮は転移魔法が制限されているし……正面から行くしかないか」
「わかった、協力しよう。だがその前に、どうしても聞いておきたいことがある」
アレックス様が私の前に庇うように出た。
「先ほど、どうしてフィーネを殺そうとしたんだ?本気だったよな」
ミラーリア様は、アレックス様と私を見て微笑んだ。