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第35話 西の魔女の真相②

 同僚に薬草園の引継ぎをして、王宮を去ろうとする頃にアレクセイはふらりとやって来た。その時に国宝級の宝石を数点渡された。その中の一つが乙女の涙と言われる宝石で、昔アレクセイに見てみたいと言っていたものだった。勿論もらうつもりはなかった。でもアレクセイの一言で、決心が揺らいだ。

「僕と君の子のために、役に立てて欲しい。こんな事しかできなくて本当にすまない」

「気づいていたの?」

「ああ、君の様子はずっと見ていたから、ここ最近調子が悪そうだったし、イザベラを見ていたから、悪阻だと気づけた」

「そう……3か月らしいわ。ほんと間が悪いわ。余計な火種は作りたくないでしょ。ちゃんと始末してあげる」

「自分勝手だとは分かっているけど、産んでくれないか?絶対に守るから。一緒には居られないけど、君たち親子に手は出させない」

「いいの……?」

「ああ、産んでくれ。僕たちの大切な子供だ。それに、君も生みたいんだよな。泣いている……」

 その時初めて自分が泣いていると気づいた。本当は産みたかったのだ。でももしこの子が王子なら、イザベラ様にとって脅威になりかねないから……

 秘かに王宮を出て、近くの村で身を隠しながら生活していると、村の人から信じられない噂を聞いた。王宮の女魔術師が宝物殿を破壊して、国宝の宝石を数点盗んで姿を消した、というものだった。

 訳が分からなかったが、兵士がその魔術師を探していると聞いて、慌てて国境沿いの森に逃げた。逃げる途中、年老いた魔女に会った。腰を痛めて動けなくなっていたところを助けると、こんな辺境で何をしていたのか聞かれた。誰かに愚痴を聞いて欲しかった私は、王宮であったことを話した。身重の体で逃げるなんて大変だろうから、国境沿いにある自分の住処に一緒に住むように言われた。

 その魔女が西の魔女だった。魔女は何かの役に立つだろうと、黒魔術を私に教えた。そして私が無事に男の子を生むと、その住処を私に譲って終の棲家を求めて旅立った。私はそれから西の魔女を名乗った。

 息子はすくすくと育ち3歳になった。アレクシスと同じ金色の髪、サファイアの瞳でとてもアレクセイに似ていた。可愛い私の小さな王子様だ。思えばあの頃が一番幸せだった。

 転機は息子が4歳の時、原因不明の病にかかった。治す方法はわかっていた。だが、その魔法薬の材料に高価な薬草が含まれていた。私はアレクセイから渡されて、そのまま手をつけていなかった宝石を一つ売って、その薬草を買った。それしか手段が無かった。

 無事、魔法薬が完成して息子は完治した。だが、宝石を売ったことで足取りがわかったのか、王宮の追手が迫った。それに気づかず、私は薬草採取に出かけていた。そして戻ってくると息子はいなくなっていた。必死で探したが見つからず絶望した。

 そのうち王宮に妾腹の産んだ王子が迎えられたと正式に発表された。私はアレクセイに裏切られたと思った。幸い息子は王族として温かく迎えられて、何不自由なく生活していると分かった。息子の幸せを願って、このまま身を引くことにしたが、裏切り者のアレクセイがいる国には居たくなかった、だから国外へ逃亡した。

 それから20年以上たって、私は不老の魔術を完成させて、25歳の姿になった。丁度魔女仲間が、この国に移り住むというので、一緒に帰ってきた。息子は臣下になって公爵家の当主をしていると風の噂で聞いていた。孫にあたる子供も2人いるらしい。

 下の子は、魔術の才能があると聞いて嬉しく思っていた。会いに行く気はなかったし、関わるつもりもなかった。数年後、魔女の会合で、魔女仲間から公爵家の次男を殺す計画があると聞くまでは……

 依頼者はかなり高貴な方で、依頼料はかなりの額が提示されたらしいとその魔女は言った。殺人依頼に立候補するのは複数いることが予想できた。だから、とりあえず攫うことにした。焦っていて判断を誤ったのだ。



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