第34話 西の魔女の真相①
「あの、アレクセイ前陛下は西の魔女、いえ、ミラーリア様に何をされたのですか?」
ここまで来たらすべて聞いてしまいたいと思ってしまった。
「え?それ聞いちゃうの?う~ん、ここまで来たら言ってもいいけど、孫の前でする話かしらね」
「俺も気になる。お爺様のことは尊敬しているが、あなたに何かをしたのなら、それを知って今後の対応をしたい。話してくれないか」
「……そうね、どうせこのまま捕まるにしても、あのジジイのしたことは別よね。少し長い話になるわ、どこか座って話せるところに行きたいわね」
「そうだな。さすがにここで話せば、内緒話とはならないか」
そう言って、アレックス様は魔力を展開した、転移魔法だ。
「悪い、マックス。ちょっと行ってくる」
「は??団長、どこに行くんですか?!」
焦るマックス様の顔が見えたが、次の瞬間には私の家に着いていた。転移防止の魔法陣は、アレックス様には効果なかったようだ……物音に気づいて母が台所から出てきた。
「あら、おかえりなさい。お客様ですか?お茶の用意をしますね」
何事にも動じない母は、応接室に案内して3人分のお茶を用意すると、ごゆっくりと言って出て行った。
「ランドレ夫人は、相変わらず頼もしいな……さあ、これで話せるか?」
「ええ、この際すべて話そうかしらね、長くなるわよ」
ミラーリア様はお茶を飲んで、ゆっくりと話し始めた。
21歳の私は、念願の王宮魔術師になって3年目、特別に王宮の薬草園にも出入りを許され、上級魔術師を目指して忙しく働いていた。王宮と言っても広い敷地内、平民出身の私は王族と会うことはなかった。
薬草の世話を任され、得意な魔法薬の開発に明け暮れる毎日は充実していたし、満足していた。そんな日々が続くと思っていたある日、偶然薬草園の見学に当時王太子だったアレクセイが来たのだ。美しい王子だと思った。でも、特にそれだけだった。自分と王子がどうにかなるなんて、そんな事あると思ってなかった。
次の日も、何故か王子は見学に来た。それでも気にせず仕事をしていた。それから王子は何度も薬草園にやって来た。それでも何も思ってなかった。おかしいと気づいたのは、王子から自分宛てに薔薇の花束が届いてからだ。添えられたカードには、明日話がしたい。と書いてあった。
そして次の日、アレクセイが私に好きだと告白をしたのだ。勿論断った。平民の私では釣り合うどころか、話もまともにできないほど立場が違うことは明らかだった。それに、アレクセイは公爵家の娘と婚約していると、お節介な同僚が教えてくれていた。
「イザベラ嬢とはいずれ婚約破棄する。好きなのは君だけだ」
何度目かの告白で、そう言われ、その言葉を信じたわけではなかったけど、交際することを了承するほどには好きになっていた。それから2年後にアレクセイは、政治の為だと言って公爵家のイザベラ様と婚姻した。この時私は別れるべきだった。でも、アレクセイの愛しているのは君だけだという言葉を信じてしまっていた。
私が25歳の時、王太子妃のイザベラ様が懐妊したと発表された。既に安定期に入り6か月たった頃だった。それを知って私は秘かに王宮を去ることを決意した。生まれてくる子には健全に育って欲しかった。大きくなって父に母とは別に恋人がいるなんて、そんな憎まれ役はごめんだったのだ。アレクセイは薄々気づいていたようだ。