第30話 アレックスとミラーリア・ジョシュア
マックスと二人で指定された部屋へ入ると、グレーの髪色に紫色の瞳をした、俺より少し歳が上に見える女性が座っていた。一般的に見て美人と言われる類の女性だった。
「ミラーリア・ジョシュア先生でしょうか?魔法騎士団団長アレックス・アルダールです。お時間を頂いて感謝します」
ミラーリア・ジョシュアは俺の顔を見て、一瞬ハッとした顔をしたが、すぐに取り繕った。
「いえ、それで私に何か?心当たりがないのですわ、こんな風に魔法騎士団の方が来るなんて……」
少し困ったように頬に手を当て、眉を下げてこちらを見上げてくる。
「そうですか。一応事件を起こした生徒と面識のある先生に、個別に聞いて回っているだけですので、あまり緊張しないでください」
「まあ、そうですか。わかりましたわ。それで、何をお聞きになりたいのでしょうか?」
「今回暴走した4人の生徒は、あなたの授業を受けていると聞きました。特に熱心な生徒であなたのところにも通っていたとか、それは本当ですか?」
「ええ、本当ですよ。それが何か?」
「先生が得意なのは、神経系の毒や惚れ薬、というのも本当ですか?」
「あら、それも誰かに聞いたのですか?確かに授業でそんなことを言ったかもしれませんが、それと今回の事件、何か関係ありますか?」
「おっと失礼。個人的に興味があったので、聞いてしまいました」
「まあ、あなたのような素敵な方なら、惚れ薬なんていらないでしょう?」
「……それは、ありがとうございます。ところで、こちらには今季から赴任されたとか。前はどこに住んでおられましたか?」
「変な質問が多いのですね。ここに来るまでは、他国で過ごしていました。あまりいい思い出がこの国に無くて……」
「そうですか。誰かに失恋でもされたとかでしょうか?それとも惚れ薬を使ったとか?」
隣でマックスが息をのんだ。さすがにこの質問は意外だったのだろう。だけどこのまま会話をしていても、きっと欲しい答えは返ってこないと思った。だから失礼を承知でこの質問をすることにした。
ミラーリア・ジョシュアは俺の顔を見て、みるみる表情を変化させた。
「アレクセイと同じ顔で、よくもっぬけぬけと!今すぐその顔、ぶん殴りたい!!」
ミラーリア・ジョシュアは立ち上がると、攻撃魔法を仕掛けようとした。
「え??団長、何が?」
「気をつけろ!そいつは西の魔女だ!」
「は??西の?そういうことは先に言ってください」
マックスは急いで攻撃できる体勢をとった。さすが副団長だ。
「あなた、あの人の孫ね?あの時殺し損ねた子供。魔法の才があるから小さいうちに葬ろうと思ったのに、小さい聖女があなたに加護を残して死んだから、手を出せなくなったのよ」
「え?」
「あら、気づいてないの?あなたの中に聖女の魂の欠片があるでしょう?それは死に際に小さい聖女が、加護代わりにあなたに送ったのよ。だから、あれから誰もあなたに近づけなくなった」
「俺が欠片を取り入れたんじゃなかったのか……」
「でもその欠片、すごく弱っているわ。そう、魂の欠けた誰かがいるのね……その子を殺さないと拙いわ」
「は、待て!!」