第2話 いろいろ決まっているようです
それから、時々アレックス様が訪ねてくるようになった。当時の私は、歳上のお兄さんが欲しい時期だったので喜んで遊んでもらっていた。初恋と言っていい、憧れの王子様だ。
子供だった私は貴族という存在の意味を理解できていなかった。だから少し大きくなって、アレックス様が公爵家の次男だと知った時は本当に驚いた。適切な距離を取ろうとしたら、アレックス様が盛大に拗ねてしまった。
「フィーネに距離を取られるなんて、耐えられない。死にそうだ」
当時6歳だった私は、アレックス様にそう言われた衝撃で、泣きながら謝った記憶がある。適切な距離は本人が希望する距離でいい、幼心にそう思うことにした。それからは、貴族平民関係なく、9歳年上の友人として接してきたのだ。身分違いの初恋はその時終わったけど。
「それでジョセフさん、今回のお手紙の件ですが、拒否権は私にあるのでしょうか?」
「うっ、それは、そうですね。実はこの件については、フィーネ様が4歳の時から計画されていまして、御父上のマルク様には早い段階で打診しておりました。フィーネ様の持病のこともございますので、この機会に王都に移り住んで、治癒魔法師の治療を受けていただきたいのです」
「移り住む?もしかして家族全員ですか?うちの家計では、王都で生活することはできません」
母が焦ってジョセフさんに聞いた。確かに平の騎士である父の給金では、王都に家族で引っ越して生活するのは無理だ。物価も家賃も王都とここでは2倍以上差があるのだ。私は14歳の今まで王都に行ったこともない。
「そこはお任せください。アルダール公爵家が援助させていただきます」
「いえ、そんな事をされては困ります。我が家の私的な事です。頼ることは考えていません」
母は毅然とした態度で断っていた。私も母と同意見だ。アレックス様のことは友人だと思っているけど、だからこそ私的な事で援助されることは違うような気がするのだ。
「はい、おっしゃる通りだと思います。ですがこちらにも事情がございまして、フィーネ様には是非王都の学園に通って欲しいのでございます。8歳から謎の持病に悩まされているフィーネ様にも、王都に来て治療されることは、悪い話ではないと思います」
「それはそうですが……」
母は悩まし気にため息をついた。
8歳を過ぎたころから、私は謎の眩暈に襲われて意識が混濁することがある。医者に診てもらっても原因が不明だと首を振られた。症状は軽かったが、歳を重ねるごとに頻度が増していった。今は生活に支障をきたすほどではないが、このまま頻度が増せばと思うと不安にはなる。
「それから、これはマルク様からの手紙です。預かってきました」
「わざわざありがとうございます」
母は手紙を読んで顔をあげた。
「まぁ、お父さん部隊長に昇進したらしいわよ。ずっと平が気楽だって昇進試験を拒否していたのに……」
「え、お父さんが平だったのって、実力がないからじゃなかったの?」
「ふふ、実は結構強いのよ。村でも一番強くって、格好いいからもてていたわ」
娘の前で惚気るなんて、こっちが照れる。そういう母は村一番の美人だと有名で、父がかなり苦心して口説いたのだと、酔った父が自慢していたのも知っている。まあ仲睦まじいのはいいことだ。
「部隊長になったから、フィーネの治療代も王都での生活も問題ないと書いてあるわ。お父さんもフィーネの持病のことを心配していたし、家族一緒に暮らしたいって。そうね、私も家族みんなで生活したいわ」
その後、休暇で帰った父も含めておこなった家族会議の結果、王都に行くことが決定した。