第26話 過保護ではありません、過激です
「アレックス様、前より激しくなっていないかしら?」
先ほどの態度にドン引き気味のリリーが、お茶を飲みながらため息をついた。アレックス様は忙しいのか、あの後私の様子を見てすぐ学園長室へ行ってしまった。
「う~ん、最近体調が悪くなったりして心配を掛けたから、更に過保護にはなっているかな?」
「過保護、そうね、過剰な保護というより過激な保護者?きっとフィーネが少しでも傷つけられたら、本当に消し炭にされるわ」
「そんな、まさか」
「いやいや、目が本気だったわ。フィーネも学園の平和のために、変なことに関わらないように、平和にね」
「うん、そうだね」
まさか、その日に厄災が歩いてやって来るなんて、そんな事思わなかったのだ。
「おう、フィーネ。これ、お前のハンカチだろ?」
そう言って、ハンカチを可愛い笑顔で渡してきたのは、先ほど話題に上がって二度と近づくまいと心に誓ったノア先輩だ。先輩が持っているハンカチは確かに私の物だ。失くさないようにと母が私の名前を刺繍してくれたものだった。
「あ、ありがとうございます?」
「だから、なんで疑問形なんだ」
それは、拾って持ってきたことに対して、お礼より文句を言いたい気分だからだ。私の周りには、沢山人がいた。ノア先輩に声を掛けられた瞬間、魔力の殺気が向けられたのだ。面倒なことは避けたかったのに……
「ああ、これか? 殺気なんて可愛いもんだろ。2年になったら魔力で戦闘するんだぞ。無視しとけよ」
手をひらひらしながら、べぇ~と舌を出す。それすら可愛いなんて……。私が心配しているのは、断じて殺気を向けられたからではない。殺気を向けられた私を心配するアレックス様による報復だ。そうは言っても彼だって立場のある大人だ。学園の生徒に対して、そんな大人気ない態度はとらないと信じたい。
「きゃっ」
隣でリリーが短く悲鳴を上げた。重い威圧の気配が背後から迫ると、ぎゅっと後ろから抱きしめられた。
「一緒に帰ろうと、迎えに来たんだが、なんだか気のせいかな?殺気を感じたんだよ。まさか私のフィーネを害そうなんて思ってないよね?」
ああ、大人気なかった……そうですね、そうでした、過激な保護者様降臨です。全力で殺気を向けられた生徒が立っていられないのか、座り込んでいた。どうやら、正確に殺気を向けた生徒だけに圧をかけたようだ。
「アレックス様、やり過ぎです!!私は子供じゃないです。自分のことは自分で守らせてください。余計なことをするなら、口はききません!!」
「え……反抗期なのかフィーネ。口をきかないなんて、そんな……」
スッと圧が引いた。生徒たちは慌ててその場から逃げていった。
「なんで、アレックス団長がいるんだ?」
暢気にノア先輩が聞いてきた。ばっちり男の子の声だ。
「女の子じゃないのか?」
「はあ?何度か会っていますよね。ノア・ダントンです。父と一緒に王宮の薬剤室にも出入りしています」
「ダントン伯爵のところの……令嬢ではなかったのか。ああ、だから、うちの団で君に告白しに行った奴らが無言で帰ってきていたのか……一応理由を聞いたが、誰も教えてくれなかった……」
「ええ、かなりの人数が来ましたね。見た目で判断されて、勝手に失恋されました」