第25話 薬草園の天使先輩
「なんだ?俺も忙しいんだ。手短にな」
愛想は悪いがいい人みたいだ。ちゃんと話を聞いてくれるようだ。
「はい、あの、ここに女性が来ることってありますか。例えば魔女、とか?」
「は?魔女。ここは学園だぞ。魔女は禁術の黒魔術を使うんだ。こんなところに来ていたら問題だろう。騎士団が捕縛に来るぞ」
「そ、そうですよね。そんな気はしていました」
「女性なら、それこそ魔法薬の先生とかなら、普通にここに来るぞ。今年から来た、あの、ミラーリア・ジョシュア先生とか」
「え、あの先生、今年から学園に赴任したのですか?」
「ああ、それまでは気のいい爺ちゃん先生だったんだ。元気だと思っていたのに、急に体調を悪くしたらしい」
「そうですか……」
「もういいか、お前もそろそろ戻れ。授業が始まるぞ」
「あ、はい、ありがとうございました。あの、お名前を聞いても?」
「いいぞ、俺はノア・ダントンだ。ノアでいいぞ。よろしくな、後輩」
「はい、ノア先輩ですね。よろしくお願いいたします」
授業ギリギリに教室に戻って来た。急いで席に着くと隣の席で、リリーがこっそり聞いて来た。
「なんだか服がボロボロですわ。どうしたの?」
「詳しくは後で話すね」
先生が教室に来たので、それ以上は言えなかった。
「薬草園に行っていたのですか?」
お昼休憩の合間に、朝の出来事を説明する。服は浄化魔法で綺麗にした。魔力の暴発は内緒だ。
「そう、そこでタンポポ色の髪の可愛い、男の先輩に……」
「まさか、薬草園の天使先輩ですか?」
「……天使先輩?」
「そう、1年生2年生の生徒がそう呼んでいるの。兎に角可愛い先輩でしょ?」
「そうそう、女の子にしか見えなかった。喋るとハスキーな声でびっくりしたの。俺って言っていたし、喋り方も荒っぽい感じで」
「フィーネ、気をつけて。天使先輩はみんなの鑑賞対象なの。喋ったなんてバレたら恐ろしいことになりますわ。男女問わず一部の熱狂的な方は、何をするかわかりません」
「熱狂的な……そう、分かった、近寄らないようにするね!!」
「ええ、そうした方がいいです。アレックス様の婚約者のフィーネを、害そうとする人はいないと思うけど」
「誰を害するって?」
剣呑な声がして振り向くと、アレックス様が立っていた。そういえば今日は学園に来ると言っていた……
「あ、違いますよ。害されるような方はいません!!大丈夫です。平穏です」
「そうか、それならいい。フィーネを害するような輩は氷漬けか、炎で消し炭にしてしまえばいい」
「……」
リリーが引きつった顔で私を見てくる。そう、私の体調が悪化して心配性が増したのか、最近のアレックス様は過保護なのだ。