第21話 怪しい魔法薬の授業
「みなさん、こんにちは。この授業を担当するミラーリア・ジョシュアです。魔法薬の授業ですが、特に私が得意なのは、神経系の毒や惚れ薬です」
開口一言、ジョシュア先生はそう言った。着席していた生徒は口には出さなかったが、皆一様に戸惑いの表情を浮かべている。
「はい皆さん、引かないでくださいね。もちろん、この授業でその様な薬は残念ですが教えません。前期は薬草の知識、後期に簡単な薬の調合となっています。毒や惚れ薬に興味のある人は、個人的に私の元へ来てくださいね。もしかしたら……なんて、冗談ですよ」
そう言ってウインクしたが、先生の目は笑っていなかった。何人かの生徒が熱心に聞いていたので、もしかしたら薬のレシピを聞きに行くかもしれない、そんな予感がした。
グレーの髪色に、紫の瞳、綺麗な女性だと思う。でも受ける印象と違い、どうしても怖いと思ってしまう。教室に入室してからずっと、鳥肌が立ってぞくぞくするのだ。体調のせいかと思ったが、背筋が凍るような感覚は恐怖のそれに近かった。本能がこの人は危険だといっているのだ。
何とか最後まで授業を受けきって、中庭で休憩していると、目の前で髪の長い女生徒が見事に転んだ。何も躓くような物はなかったと思ったが、とっさに助け起こした。リリーもいたが突然すぎて反応が出来なかったようだ。ふんわりとしたプラチナブロンドが腰まであり、長い前髪からのぞく瞳はペリドットのような綺麗な色だ。
「ありがとう……あら、あなた……このままだと16歳までに死んでしまうわ……」
突然助けた少女が私を見て、そう言った。
「え、あの、どういうことですか?」
思わず聞き返したが、その人はキョトンとして私を見た。
「あ、あれ?今何か言ってしまったかしら……?」
「あの、このままだと16歳までに死ぬと言っていました。」
「まああ、ごめんなさい!無意識に予言をしてしまったのね。ああ、どうしましょう」
少女はオロオロしだした。リリーが少し前に出た。
「あの、もしかして占いが得意なキャンベル先輩ですか?たまに無意識に予言をするという……あの」
「ええ、そうね、メアリー・キャンベルです。残念ながら今まで無意識にしてきた予言で、はずれたことはないの……でも、こんな予言は初めて。いつもは雨が降るとか、風邪をひくなどであまり大事でない事なのよ」
キャンベル先輩はかなりショックを受けていた。もちろん私もショックだ。根拠のないことなら気にしなかったかもしれない、でも今まさに体調が悪いのだ。理由は魂が欠けているからだろう……
「あの、突然勝手に予言をしたお詫びに、私に占いをさせてくれないかしら?死んでしまうことを回避できる何かがあればいいと思うの」
この世界にある占いは、魔力を使っておこなう。光魔法、もしくは闇魔法に火・水・風・土属性の魔法を混ぜておこなうらしい。的中率はその占い師の魔力や技術次第で、それでも5割から8割の確率で当たるらしい。予言といわれるのは、それとは異なる先読みの魔法だ。先の未来を視る力……魔法使いの中でも希少な存在だ。
「ねえ、フィーネ、大丈夫?このまま予言が当たるなんて怖いわ。是非占ってもらいましょう!!」
リリーに腕をつかまれて、思考が戻って来た。そうだ、このまま死ぬのを待つなんて嫌だ。
「はい、占ってください!!」
「わかったわ。不安にさせてごめんなさいね。では、近くの噴水に行きましょう。私の占いは水魔法なの」
キャンベル先輩について行くと、中庭の隣に小さな噴水があった。女神像がもつ壺から水が出ている。
「ええと、あなた、名前は?」