第19話 入学試験はないですが適正は見るようです
「うん、王都に来るってわかってから、この学園を希望して、あとは人にまかせっきりだったから……」
「珍しいですわ。ここは入学試験はないけれど、適正は見ていたと思うの。書類審査で大抵のことは判断できるから、あとは面接試験とか」
「面接……試験?」
「よくわからないけれど、きっとフィーネは特別枠なんじゃないかしら?3属性持ちで光魔法でしょ、大丈夫よ、十分入学資格はあるわよ」
「うん、そういうことにしておく。今更ダメと言われたら困るし」
「そうそう、じゃあ、食堂に行きましょう。遅くなったら、人気のメニューが売り切れてしまうわ」
急ぎ足になるリリーを追って食堂に向かう途中、女性の教師とすれ違った。その瞬間胸がドクンと脈打った。痛いほどの衝撃に、歩を止めた私をリリーが振り返る。
「え、どうしたの、フィーネ?胸が痛むの?」
「えっと、もう大丈夫。あの、さっきすれ違った女の先生……」
「え、ああ、確か赤のクラスの担任だったかしら?美人だから覚えているわ。名前は……そうそう、ミラーリア・ジョシュア先生。魔法薬の担当だったかしら」
「そう。魔法薬の先生なんだ……」
「ちょっと大丈夫?顔色が真っ青よ。医務室に行く?」
「ううん、大丈夫。すぐ良くなるよ」
いつもの眩暈ではない。これはフィオリーナの魂が何かしらの警鐘を鳴らしているみたい。どくどくと胸が騒がしい。あの先生と何か関係があるのかもしれない。魔法薬の授業は私も取っていた。ちょうど一回目の授業が二日後にあったはずだ。直接会えばわかるかもしれない。
最近、王都のあちこちで奇妙な事件が多発しているらしく、魔法騎士団も街に駐在している騎士に混じって捜索にあたっているらしく、学園に入学してからは夜にアレックス様が訪ねて来てくれる機会が減っていた。毎日体温を感じて眠ることに慣れてしまった私は、最近少し眠りが浅い気がする。何か夢を見ている気がするが、朝目が覚めると忘れている。今日もびっしょり寝汗をかいて目が覚めた。心臓だけがドキドキと脈を打っている。
「おはよう、フィーネ。なんだか顔色が悪いわ。大丈夫なの?」
シャワーを浴びてから、食堂に降りていくと、母が心配して声をかけてくれる。
「うん、大丈夫だよ。でもちょっと食欲がなくて、朝は果物だけ食べていいかな?」
「あまり無理しないでね。何かあるなら早く言ってね」
「うん、ありがとう。今日は帰りに神殿に寄ってから帰るから、少し遅くなるよ」
「サミエル大神官長様にお会いするのね。気をつけて行くのよ」
精霊魔法は、学園で教わることは出来ない。元々聖女がそんなにいない、つまり使える人間がいない。教師でも条件は同じだ。困った私はサミエル大神官長様に相談した。聖女と言えば神殿と切っても切れない縁がある。多くの文献を持っているとすれば神殿だろう。そう思って相談を持ち掛けたのだ。想像通り、神殿には貴重な聖女に関する文献があった。その文献は当然門外不出になっていた。
そこで、サミエル大神官長様と交渉して、週1回神殿に通って、文献を読む許可をもらったのだ。条件として新たに聖女としての情報がわかれば、記録しておく。現在聖女は一人、神殿としても貴重な記録がつけられるという事だ。今読んでいるのは200年前にいた聖女の日記だ。