第197話 卒業記念舞踏会以来の再会
「ううん、私たちも今着いたのよ」
リリーがそう言って庭の隅の椅子に腰かけた。私は向かい合うように座った。隣にはエマが座っている。
「卒業記念舞踏会以来ですね。元気でしたか?」
エマが意味深な微笑みで聞いた。何も言えないまま会場から攫われる形になった私は、あの後しばらく自宅に籠った。婚約は破棄されたので王宮の部屋を引き上げ自宅に帰って来たはいいが、記者や見物人が多く押し寄せ部屋から出られなかったのだ。それも最近は落ち着いて来たので、やっと研究室に通えるようになったのだ。
「あの時はお騒がせしました。私も何も聞いて無くて、いきなりあんなことになって困惑したのよ…」
「そうよね、あれは流石にびっくりよ。あの後王妃様が陛下に詰め寄ったり、ノア先生がウィリアム殿下に詰め寄ったりして会場も混乱していたんだけど、舞踏会自体は閉会時間に近い時間帯だったからそのまま自然に解散していたわ」
「まあ、敢えてその時間を狙ったのでしょう?あくまで主役は卒業生ですからね」
「そうだね、なんだか見世物になった気分だったけど、皆が混乱してなかったのなら良かったよ」
「逆に見世物としては最高だったわ。あの「愛を捧げる王子」の中のシーンが想像から現実になったのよ。女生徒は大興奮よ」
そういえばリリーもあの小説を愛読していた。エマは読んでいなかったそうだが、どこか現実離れした設定に何かの余興だと思っていたらしい…
「最近までいろいろと騒がしくて、やっと落ち着いて二人に会えたわ。リリーは卒業後すぐに領地に戻っていたし、エマは音信不通だったわよね?」
「ええ、お父様が卒業した途端、やはりすぐに結婚した方がいいって言いだして、説得するのに領地に行っていたの。お母様に協力してもらって何とか説得できたわ」
「私は、家業の手伝いで少し他国へ行ってました…それも終わりましたので、通常は連絡が取れると思います」
「そう、家業も大変なのね。落ち着いたらまた三人で街に行って、今流行っているカフェに行きたいな。王子妃候補でなくなって結構自由に動けるのよ。聖女だから気をつけて欲しいとは言われているけど、今までよりは自由に行けると思うから」
「そうね、そうしましょう。卒業したって私たちは永遠に友達だもの」
「そうですね、家業がない時は是非ご一緒させてください」
私たちは次の休みに会おうと約束した。そして帰宅して両親にもアレックス様が訪ねてくる日が決まったら、家にいて欲しいとお願いした。今後の話をしたいと言ったアレックス様が両親も交えて話したいと言ったからだ。
それから7日後、アレックス様が家を訪ねて来た。婚約は破棄されてしまったままなので、今は恋人として家を訪ねて来た、そんな感じになっている。
「いらっしゃい、アレックス様。色々と大変でしたね」
母はにこにこと笑ってアレックス様を迎え入れた。父は複雑な気持ちなのか、緊張したまま様子を見ていた。
「ご無沙汰しておりました。今日は時間をいただきありがとうございます。今後のことを相談させていただきたく伺わせていただきました」
「まあ、ご丁寧にありがとうございます。色々とご苦労があったと伺っています。戻って来ていただけただけで嬉しく思っていますよ。戻ってこなかった時のことを色々考えていたのが無駄になって本当に良かったですわ」
可愛く微笑む母を見て、アレックス様が引きつった顔で微笑み返した。母ならば呪いの一つや二つ考えていそうだと、私も少し思ってしまった…
「では今後のことを相談させていただきます」