第195話 sideアレックス 帰還③
「はい、わたくしずっと心苦しかったのです。お姉様がセドリックを思いながらもアレックス兄様と婚約したのも、国が荒れていると分かっていても何も出来なかったことも…。幸いわたくしの婚約者は王弟派の貴族で、この度の粛清で平民になりましたので今は婚約者がいません。わたくしがミズリー国にお嫁に行けば、これからもミズリー国とは縁が切れませんわ。第三王子のウィリアム殿下は3歳年下ですが…受けてもらえるでしょうか?」
俺は陛下からの手紙を思い浮かべた。確かにそのような提案が書かれていたので、こちらが打診さえすれば可能性は高かった。
「それでいいの?あなたが犠牲になるのは心苦しいわ」
「いいのです、元々の婚約者にも何も思い入れがありませんでしたし、お姉様のように愛する方がいるわけでもないので…それにウィリアム殿下はアレックス兄様に似ているのでしょう?素敵な方だと思うのです」
俺は、その事をマルク-ル陛下に伝えた。ウィリアム殿下は納得して了承してくれたが、ここで思わぬ壁に阻まれた。王妃が断固反対を訴えてマルク-ル陛下に抗議したのだ。フィーネは王妃様のお気に入りで、ウィリアム殿下と婚姻する日を心待ちにして結婚準備にも気合が入っていた。ここでフィーネを取り上げたら、何が起こるか分からず困っているという内容だった。
「わたくしに考えがあります」
マルク-ル陛下からの連絡を聞いて、またしてもソフィア殿下が声を上げた。曰く、「愛を捧げる王子」作戦だ。何でもミズリー国やトリアン王国で流行っている恋愛小説があるらしく、それを模してフィーネを取り戻す作戦らしい…
「いや、そんな恥ずかしいこと、俺には無理かと…」
「何を言っていますの?このままではフィーネ様はウィリアム殿下と婚約、結婚してしまいますわよ。ウィリアム殿下と陛下は王妃様の気持ちさえ変われば、この婚姻に前向きになってくださるのでしょう?」
「それはそうですが、この作戦だと衆人環視の中婚約破棄をして、俺がフィーネを攫うのでしょう?これで王妃様が納得するとは思えませんが…」
「それはそうですが、王族が皆様の前で婚約破棄を宣言すれば流石に覆すことは無理でしょう?やってしまえば王妃様も諦めてくださいますわ」
「でも。フィーネは断罪のような婚約破棄を突き付けられるのでしょう。それはどうなんですか?」
「そこは流行の小説ですわ。会場にいるほとんどの方が小説の内容を知っていますもの。フィーネ様は主人公のポジションになります。想い人であるアレックス様に攫われるように退場すれば、蔑むどころか羨ましがるご婦人が多いでしょう」
そう言ってソフィア殿下は俺に一冊の本を渡してきた。俺は仕方なくその本を読んだが、これを現実でやっていいのかと疑問しかなかった。
時間が無かったため、俺は後のことをミラお婆様とセイお爺様に託し秘密裏にクリスティ殿下と共にミザリー国へ帰還した。あと2日で卒業記念舞踏会だった。
「初めまして、ウィリアム殿下。トリアン王国第二王女ソフィアと申します。この度はこちらの提案をお受けいただきありがとうございます」
「初めまして、ソフィア殿下。何やら提案があると聞いたのだが…」
「はい、ご説明させていただきますわ。ウィリアム殿下はこの小説をご存じでしょうか?」
「ああ、母上がはまっている小説だな。内容までは知らないが…」
「まあ、王妃様もご存じなのですね。それは都合がいいですわ。では、この冒頭のシーンだけ読んでくださいな」