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第192話 婚約破棄されました

 会場が一気にざわついた。第三王子であるウィリアム殿下が、婚約者とは別の女性を伴って卒業記念舞踏会に入場したのだ。チラチラと私の方へも視線が来るが、私もなぜこんな状況になっているか分かっていないため、静観するしかなかった。ウィルは丁寧に女性をエスコートしながら、私の前までやって来た。

「どういうこと??」

 隣でリリーが小さく呟いたが、私もどういうこと?と聞きたい気分だ。今この会場で理由を知っているのは当人のウィルのみだろう。

「あの、ウィル?」

 ウィルは一瞬私を見てから、少しばつが悪そうな顔になって隣の女性を見た。綺麗なオレンジ色の髪に翡翠色の瞳を持った美しい女性だった。ただ所作から高貴な方だとは思うが、夜会などどこでも見たことのない人物だ。女性はウィルに微笑んでから頷いた。ウィルも決心したように頷いてから私を見た。


「フィーネ・スミス子爵令嬢、君との婚約は今日この時をもって解消させてもらう。僕はここにいるトリアン王国第二王女であるソフィアと婚約することにする。真実の愛は彼女に捧げる」

 真実の愛は彼女に捧げる、その言葉に会場にいた女性が一斉に悲鳴を上げた。このセリフは、王都で流行している恋愛小説「愛を捧げる王子」に載っているセリフそのままだった…王宮で引き籠り生活をしていた私に、侍女のミリアさんが持ってきてくれた本の中にあり、私も暇つぶしに中庭の東屋で読んでいた本である。

 物語は婚約者である王子が主人公に婚約破棄を突き付けるシーンから始まる。その中にこのセリフがあるのだ…まさか現実の世界でこのセリフを聞くとは思っていなかった。

 隣で聞いていたリリーとエマも困惑したまま私とウィルを見守っている。確か物語では、主人公が婚約破棄を受け入れる…セリフは…

「婚約破棄ですね、承りました。真実の愛をどうぞ末永くお続け下さい」

 私はウィルの意図が分からないまま、そのセリフを言った。なんだろう、隣のソフィア殿下がキラキラと目を輝かせて満面の笑みで頷いている。どうやら彼女はこの小説の愛好家のようだ。でもそうなるとソフィア殿下の立ち位置は悪役令嬢的なものになると思うのだが、そこはいいのだろうか??

 小説ではこの後、主人公の元に想い合っていた元恋人が駆けつけて求婚するのだが…会場は恋人が現れるのではと、きょろきょろと見渡す令嬢や夫人で溢れている。これ、現実でやっていいのかしら?そう思って嘆息していると、後方の扉がバンっと音を立てて開いた。

「え…?」

 そこには、魔法騎士団の騎士服を着たアレックス様が立っていた…

「アレックス団長だ!」

 誰かがそう叫んだ。アレックス様は真っすぐ私の元へ進んでくる。そして、私の前にやって来るとそのまま跪いた。いつの間にかリリーとエマは私の側からいなくなっていた。少し裏切られた気分だ。衆人環視の中、今から始まることを予想して背中に嫌な汗がつたう。

「フィーネ・スミス子爵令嬢。待たせてしまってすまなかった。約束通り戻って来た。君に永遠の愛を捧げる。私と結婚してくれますか」

 これは物語のセリフではなかった。ウィルの隣でソフィア殿下が不満そうに「セリフが違いますわ」と呟いたのは聞かなかったことにして、私は震える手でアレックス様の手を取って「はいっ」と言った。アレックス様は満面の笑みで私を抱き上げると、そのまま会場から出ていった。会場は女性の黄色い悲鳴で溢れ、男性は唖然としている者が多かった。会場から主人公を抱き上げて愛の逃避行をするのは小説と一緒だった。

「あの、アレックス様、これってどうなっているのですか?説明をして下さい!」


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