第190話 最後の授業
「さて、今日で学園の授業は終了だ。最後までよく頑張ったな。留年する者も出なかったし、皆希望の就職先へ行くことが出来そうで良かった。俺と会うのも卒業記念舞踏会で最後になるな」
「ノア先生、今までお世話になりました」
皆口々にお礼を述べる。クラス全員が最終課題を出し終え、卒業資格を無事手に入れた。これからはそれぞれの道に進むのだ。3年生初日にやらかした女生徒3名を除けば、薬草科はその後リタイアする者もなく平和なクラスだった。お互い切磋琢磨しながら1年間頑張れたのは、ノア先生のお陰だ。
「先生、俺、卒業後も相談に来たいです。いいですか?」
「ああ、何年かはここで教師をしているから、何かあればいつでも来いよ」
「私もお願いします。職場に不安があります。何かあったらお願いします」
いろいろな所から生徒が声を上げた。ノア先生は手厚い指導をしてくれて、それもあって留年する生徒がいなかったのだ。薬草科の指導がノア先生で良かったと思ったことは数えきれないほどあった。
「ノア先生、本当にお世話になりました」
「おう、フィーネ。よく頑張ったな。次は5日後の卒業記念舞踏会だけど、アレックス団長から連絡は?」
皆が帰っていった後、私は一人薬草園に来ていた。リリーとエマは先に帰って、私は薬草を分けてもらうため許可を貰って残っていた。課題は提出したけど、更に改良をするための研究は続けていた。
「いえ、ウィルから情勢が変わったとは聞きましたが、その後のことは…」
「そうか、でもこのままなら殿下と結婚することになるのではないのか?」
「それは……今は分かりません。ウィルには気持ちは伝えました。多分ウィルは分かってくれていると思うのですが、結婚準備は相変わらず進んでいまして…今更なかったことに出来るのか、非常に不安です…」
「そうか、卒業記念舞踏会までに団長が帰って来られたら、婚約は破棄できるんだったな…」
「そうですね。あと5日、何も連絡がないので不安しかありませんが…」
「そうか、何かあれば逃げてしまえと言いたいところだけど、貴族だからな…」
「私を養女にしてくれた伯父には迷惑はかけられませんね。私が平民なら、すぐに逃げてアレックス様を迎えに行きたい、とか思ってますが…」
「そうか、迎えにか。フィーネらしいな…俺は見守るくらいしか出来ないが、お前らしく頑張れよ」
「ありがとうございます。相談に乗ってもらって、愚痴まで聞いてもらって、本当に感謝しています」
「はは、まあ可愛い後輩で、今は生徒だからな。いつでも相談に来たらいいさ」
ノア先生は私の頭をポンポンと撫でて微笑んだ。相変わらず天使だ。きっと卒業記念舞踏会では女生徒が殺到するのだろう。私は目的の薬草を手に王宮へ戻って来た。ウィルとはあの後少しぎこちなくなってしまったが、今でも婚約者として夜会などに参加することもあった。結婚準備は順調に進み、卒業記念舞踏会が終われば、正式に婚約者として公務に参加して、半年後に結婚する予定だ…
「5日後にアレックス様が帰って来るなんて事、奇跡でもないとあり得ないよね…」
『なんや、そんなに不安なんか?あのアレックスや、意地でも帰って来るやろ?わいはちゃんと伝えたで、卒業記念舞踏会までに帰らんかったら、ウィルと結婚するって…』
「そうなんだよね。信じるって決めたのに、不安になっちゃう。このまま結婚したら流石に無理だよね…」
『そやな、貴族は簡単に離婚出来へんのやろ?最低でも5年は夫婦生活をして、それでも無理な時に申し立てやったかな?』
「詳しいね、チルチル。それにね、王子妃になるのだから、ほとんど離婚は不可能だって習ったよ…」