第188話 話をしましょう
「突然訪ねてすまない。研究課題が済んだと聞いたので、話が出来る時間があるかと来たんだ」
「はい、明日からはまた演習がありますが、今日はもう予定はないです」
「そうか、少し話せるか?」
「はい、どこで話しましょうか?」
さすがに部屋に入ってくださいとは言えなかった。一応婚約者ではあるので部屋に招き入れてもいいのだが…
「そうだな、中庭に行こう」
「はい、では護衛の方と侍女は少し離れて待機してもらいますね」
今でも護衛や侍女を伴っての移動が義務づけられていた。先ほどカフェでお茶を飲んだ時も、護衛は常に見える範囲にいるのでお茶をする時にも見張られている気分だった。
「そうだな、それでいい」
ウィルはそのまま中庭まで歩いていったので、私はあとをついて行った。庭の端には小さな東屋があって、私はよくそこで読書をしていた。ウィルが東屋の椅子に座ったので、私は向かいの席に座った。
「フィーネの気持ちを確認したくて呼び出したんだ。実は、君が課題をしている間に状況が少し変化した。病気で倒れていたトリアン王が最近政務に復帰した。君を攫おうとした実行犯が捕まり、依頼主も特定されただろ。ある程度王弟派を捕縛することが出来て、王が復帰しても安全が確保されたようだ。今はアレックス兄様が王配予定者として国に留まって、ミザリー国が親交国として後見しているから他国も静観している。このまま半年経てば君は僕と婚姻する。フィーネの気持ちが聞きたい。君はどっちと生涯を共に過ごしたいと思う?」
「それは…どういう意味?」
「少しは僕のことを生涯の伴侶として見れないか?僕のことを選んでもらえないか…」
切ない声でウィルはそう言って私の手を取った。アレックス様ではなくウィルを?それは…
「ごめんなさい、私はアレックス様を待っているの。だから、ウィルの手は取れないわ」
「…わかった。今日はそれだけ聞きたかったんだ…卒業記念舞踏会まではこのまま婚約者でいてもらうけど、後のことは僕に任せて欲しい。君の希望通りとはいかないかもしれないけれど、努力するよ」
ウィルはそのまま去っていった。何と声をかけていいか分からず、何を言っても言い訳になりそうで、私は結局何も言えずに見送るしかなかった。それからも私たちは表面上婚約者として、結婚準備を進めながら過ごしていた。学園の方も演習課題を終え、後は個人で魔法薬を発表、もしくは論文を発表すれば卒業資格を得られるところまで来た。つまりあと少しで卒業記念舞踏会だ。
「あと少しで卒業ね。エマはこの後どうするの?そろそろ就職先の斡旋とか、紹介状が舞い込んでくる時期よね?クラスの子たちも半分くらいは内定や紹介状を貰っているみたいよ。王宮の面接まであと少しだだから、緊張するわ」
「え、っと、そうですね、私は親族の家業がありまして、そちらを手伝うことになっています。当分結婚はしないので、そちらを頑張る予定です」
「そうなんだ。私とフィーネは面接よね。研究所の職員目指して頑張りましょう」
「うん、そうだね。兎に角面接を突破して、魔法薬の研究発表に専念したいよ」
「そうね、最後の課題を落として留年なんて事になったら、きっとお父様が学園を辞めさせて、すぐにチャーリーと結婚しろと言うかもしれないわ。なんとしても卒業しないと…」
「そう言えばチャーリーはどうなったの?」
「チャーリーは魔法騎士団入団試験に合格して、後は卒業を待つだけよ」