第187話 後期になりました
王子妃教育、結婚に向けての準備そして研究室に通って結界魔法の研究をしていると、夏季休暇はあっという間に終わってしまった。後期は本格的に演習、研究、そして発表があり3年生の生徒は悲壮感たっぷりに教室を往復する。まずは三人一組になってのグループ発表だ。薬草科は新薬を開発することが目標だ。…と言ってもそんな簡単に新薬などできないので、現在ある処方に少し改良を加えて効果を高めることで良しとされている。
「そうよ、改良でいいのよ。でもね、毎年改良が加えられているのだから、ほとんど出尽くしている感があるのよ…どこを改良しても、先輩方が似たようなことを発表している可能性が出てきて、それをいちいち調べる方が大変じゃない!」
リリーがいくつかの過去の研究データを見ながら頭を抱えた。確かに毎年先輩方が知恵を出し合い改良をするのだ。今あるのが最高で、これ以上改良の余地がない魔法薬がほとんどである。
「いっそ、本当に新薬を作った方が簡単な気がしてきた…何かいい案、そこらへんに落ちてないかしら?」
「落ち着いてください、リリー。本気で地面を見ない!落ちてませんよ」
エマが呆れたようにリリーを引っ張った。確かに行き詰っているのだ。それならば、着眼点を変えてみようと思った。
「ねえ、今はそれほど使われていない薬ってないかしら?それなら、きっとまだ改良する点は多いと思うの」
「使われていない薬?」
「うん、例えば今はその魔法薬がなくても解決できて、敢えて今は作られていないような、何か?」
「ああ、例えばもう撲滅された病に使用されていた魔法薬とかでしょうか?」
「そう、例えば、そうね…魔物が多くいた時代に、魔物の体毛が原因で引き起っていた千日咳の魔法薬、あれはほとんどかかる人がいなくなって今は特に作られてないでしょう?あれを改良できないかしら?今も魔物討伐には行くし、千日咳でなくても効果がある様にすれば、十分使えるような気がするの」
「いいわね。千日咳の魔法薬。作り方は公開されていたわよね?図書館で調べてみましょう」
研究発表は、千日咳の魔法薬で決定した。今では撲滅された千日咳の魔法薬だが、風邪の咳止めとしても使えることがわかり、咳止めの効果を高める改良をすることにした。咳止め薬として改良した魔法薬は、提出期限ギリギリに何とか間に合った。
「お疲れ様~何とか間に合って良かったよ~これでゆっくり休める~」
リリーが私とエマを抱きしめて喜んだ。エマもホッとした顔で頷いた。
「さすがに少し焦りました。提出期限ギリギリでも、納得できるものが出来て良かったです」
「そうだね。咳止め効果に特化した魔法薬が出来て良かったよ。喘息の患者さんにも使えそうだってノア先生が褒めてくれたもんね」
「そうね、これで一つ目の課題はクリアしたわね。後は演習課題と最後の研究発表ね。これはグループではなく個人だから、それぞれ違ったことをするのよね…」
「うん、個人は少し心細いな…今回の研究、3人で出来て本当に楽しかったよ。ありがとう」
「はい、私も楽しかったです」
「勿論私もよ。ありがとう」
久しぶりにカフェでお茶をして帰ることにした。今日くらいはゆっくりしても罰は当たらないはずだ。明日からは演習課題に取り組む。そして、王子妃教育と結婚準備が再開される予定だ。それを思うと溜息をつきたくなったが、折角カフェに寄り道をしたのだから楽しもうと、思考を切り替えて楽しんだ。
王宮に戻って暫くすると、ウィルが私を訪ねて来た。研究発表が終わるまで忙しくてウィルと一緒にいる時間が無かったため、本当に久しぶりの対面だった。少し緊張する私を見て、ウィルが苦笑した。