第186話 夏季休暇に入りました
学園が夏季休暇に入る頃、結界魔法が完成した。3年生は演習が中心で、2年生まであった試験などはなく、研究した成果をレポートにして提出すればいい。後期からは更に実験や研究が増え、卒業するまでに最低でも2つは成果を発表しないといけない。出来なければ留年となるので後期はみんな必死で演習を頑張るのだ。
「フィーネ、後期まで会えないの?出来れば夏季休暇中に遊べるといいのだけれど…忙しいのよね?」
リリーとエマが前期終了式の後、カフェに誘ってくれたので研究室に行く前にお茶をしていた。最近は放課後ウィルと別行動なので、3人でお茶をすることも増えていた。チルチルはテーブルの上で、クッキーをつついて食べている。さすがにここでは大きくなれないそうだ。
「そうね、さすがにそろそろ結婚式の準備をしないとね…。王妃様も待ってくださっているし…」
「そうか、いよいよ準備なのね。私たちは2年くらい働いて、安定してから結婚しようと言っているのよ。チャーリーは魔法騎士団希望だし、私は研究室に入りたいから」
「私は結婚しなくてもいいのですが、仕事を頑張ろうと思っています」
「そう言えば、エマは婚約者っていないの?」
「一応、それっぽいのがいますが、出来ればこのまま一人でいたいですね…」
「貴族の令嬢にしては珍しい考えよね。一生独身を希望するなんて」
「今からの時代、女性は更に自由を手に入れると思います。妻が家庭を守る、それも素晴らしいことですが、それに固執せず自由に選択することが出来るように、早くそうなればいいと思っています」
「うん、そうよね。私も自由にしたいことが出来たら、それが当たり前ならいいと思うよ!」
「あら、フィーネにしては珍しく熱いわね。何か思うところがあるのかしら?」
「あはは、それは色々あるのよ。でも、理想だと思うの。男女関係なく、したいことが出来る人生」
「まあ、それはそうね。チャーリーは仕事に理解があるから、私が仕事を持つことを許してもらえているけど、まだ貴族は古い考えの方が多いからね」
リリーは3日後に領地に戻る予定らしい。エマは親戚の家に行くそうだ。私は王宮で王子妃教育と結婚準備、そして研究所へ通う予定だ。結界魔法は一応完成したが、通う間に研究所の人たちと仲良くなり、今後も通うことにしたのだ。リリーもそうだが、私も研究所へ就職したい、そう思い始めていた。
「フィーネちゃん、こちらのデザインはどうかしら?この袖は今年の流行で、こちらは流行ではないけれど、フィーネちゃんには似合いそうよ」
夏季休暇に入ってすぐ、私は王宮の一室で結婚式に着るドレスを選んでもらっていた。あくまで私はそこにいるだけで、決めているのは主にスコット侯爵家のキャサリン様と王妃様だ。私は渡されるデザイン画を見て、何も言えずに頷いているだけだ。生地を何枚も見せられ、その度に説明されるがよくわからない。
「あの、なにぶんと勉強不足で、生地についてはお二人にお任せいたします」
何とか、声に出してそう伝えたが、今でもドレスを仕立てるという行為自体に気後れをする、街に出て既製品の洋服を選ぶ方が余程気楽で安いのだ。庶民の生活にどっぷりと浸かり今まで生きてきた、貴族になったからと言って、それに慣れることは難しい気がした。
「遠慮しなくていいのよ。一生に一度の晴れ舞台ですもの、フィーネが着たいものを着て欲しいのよ。色も白以外でもいいし、ウィルの色を入れて金色で刺繍するのも素敵だわ」
ウィルの色、王妃様の言葉にドキリとした。ウィルの色は、アレックス様の色でもある。私はどちらを思い浮かべてドレスを仕立てるのだろうか…
「いえ、色は白一色でいいです」
今ここにいない誰かを想い、その色を取り入れることは出来なかった。それならばいっそ白一色でいい。