第185話 研究室に通います
「チルチル、もしかして結界魔法なら私が関われたりする?」
『なんや?王宮の結界をフィーネが張るんか??まあ、いけるとは思うけど…』
目の下に隈を作ったアンダーソン室長さんは、コソコソとチルチルと話していた私をパッと見た。
「もしかして、そちらは聖女フィーネ様ですか??」
「あ、はい、そうですが…」
「おお、やっと会えました。是非あなたの魔力や性質を調べさせてください。今後の研究にきっと役に立つはずです」
「駄目だ。フィーネを実験に使うなど許可出来るわけがないだろう」
不機嫌そうな声でウィルが遮った。アンダーソン室長さんは残念そうな顔で私を見た。確かに私を実験に使う案は頷けない。
「あの、実験は遠慮したいのですが、王宮の結界の件は、もしかしたら協力できるかもしれません」
「フィーネ、それは君の仕事ではない。余計なことはしなくていい」
「でも、早く結界を張り直さないと、どこかの国が王宮を狙うかもしれません。そうなれば、この国の安定は損なわれて、きっと国民も困ります。仕事ではありませんが、出来るならお手伝いがしたいです!」
「おお、フィーネ様がお手伝いを!それは有難い申し出です。この研究室は人手が足りず、今抱えている案件だけで限界です。勿論王宮の結界が優先順位でいけば第一位ですが、その他のことも疎かに出来ない状況なのです」
焦燥感たっぷりにアンダーソン室長さんは溜息を吐いた。
「お願いします、ウィル。私は私の出来る事をして…」
アレックス様を待ちたいと言いかけて、さすがにその言葉は飲み込んだ。でもウィルは寂しそうに微笑んで、そうかと言ったまま黙ってしまった。
「あの~それで、どうしたらいいのでしょうか?」
アンダーソン室長さんが、気まずそうに聞いてきたので、私は微笑んでお手伝いを申し出た。明日から放課後、用事のない時は研究室に通うことを約束して、私たちはそのまま自室へ帰って来た。その間もウィルは何かを考えているようで、終始無言だった。
『だ~、なんやあの空気は!めっちゃ気ぃ使うで!ほんま勘弁してほしいわ』
部屋へ帰って来た途端、チルチルが息を吐きだして叫んだ。確かに空気が重かったのは気づいていた、でもどうしたらいいか私にも分からないのだ。
「ごめんね、チルチル。最近こんな感じになることが多くて…」
『ほんま、何とかならんのかいな。空気が重いんや!可愛いわいの体が押しつぶされそうや』
「何とかしたいんだけど、どうしたらいいか分からないんだよ…」
『ウィルも焦ってるんや。トリアン王国もアレックスの奮闘で何とかなりそうや。ウィルとしては複雑なんやろうな…』
「それっていいことじゃないの?ウィルも尊敬するアレックス様が戻って来るなら喜ぶよね?」
『そやな、たぶん喜ぶんやろな…それが、複雑なんや。それを気づいてもらえんのも不憫やな…』
「??」
『まあ、なんとかなるんとちゃうか…こればっかりはわいの嘴も突っ込めんわ』
それから10日ほど、私は放課後ウィルと別行動をとった。直接魔法研究所へ向かえる転移魔法石をアンダーソン室長さんが貸してくれたためだ。研究所の人たちは親切で、目新しいことを手伝うのはとても楽しかった。