第184話 転移魔法石の真実
「フィーネ、王宮についたら一緒に魔法研究所へ来て欲しい」
放課後、馬車が待っている場所まで来るとウィルがこっそり私に囁いた。相変わらず登下校はウィルと一緒になることが多かった。豪華な王室の馬車で送り迎えしてもらうのはかなり緊張するが、わざわざ別の馬車で送迎を頼むのは二度手間になるため、仕方なくウィルの馬車に乗せてもらっていた。
「もしかして魔石の件?」
「ああ、先ほど知らせが来たんだ。このまま研究所の方へ向かっても構わないか?」
王宮の端に位置している魔法研究所は、国の魔法研究の最高機関だ。リリーが就職先として希望している所でもあった。
「それは構わないけど、私が行ってもいい場所?」
「ああ、問題ない。僕の婚約者なのだし…」
「そう…」
馬車の中が一瞬で緊張に包まれた。最近ウィルは事あるごとに婚約者だと言ってくる。それは事実だけれど、どうも違和感がある。本当は卒業記念舞踏会の後に結婚するなら、そろそろ結婚準備に入らないと間に合わないと言われていた。でも、それも私は拒んでしまっていた。
「あの、さ、…そろそろ結婚式で着るドレスを仕立てなくては間に合わない。母上も一緒に選ぶそうだから、今度の休暇の時にでも…」
「ごめんなさい。もう少しだけ、待ってくれないかしら…」
結婚準備を始めてしまったら、もしアレックス様が戻って来てもこの結婚は白紙に出来ないような気がして、ウィルが何度か提案してくれた準備を断っていた。ここ最近は、この話が出る度にお互いギクシャクしてしまう。それでもウィルは何度も話を持ってくる。ウィルは私の気持ちを知っているはずだ、なのに何故か焦った様にこの話をするのだ。
「わかった。でも、時間が無いのは分かって欲しい。あと、半年なのだから…」
「はい…」
半年という言葉が重く圧し掛かった気がした…そこからは無言で魔法研究所に着くまで考えていた。チルチルは一言も発せず、ずっと頭の上に埋まっていた。
王宮の端の森を抜けると、馬車が停車した。そこには古びた三階建ての石造りの建物が建っていた。
「着いたな。このまま第3研究室を訪ねる。一緒に来てくれるか?」
「はい」
あまり明るくない建物の中へ入ると、ウィルは階段で2階へ上がっていった。私はウィルの後ろを無言でついて上がった。研究所の中は、それぞれ専門の部署に分かれているようだ。第3研究室と書かれた部屋の前に立ち止まると、ウィルが扉を叩いた。すぐに中から人が出てきて、私たちは中へと案内された。
「いらっしゃいませ、殿下。わざわざご足労いただきありがとうございます。何せ人員不足で、そちらまで伺うことが出来ませんでした」
「いや、いい。急に頼んですまなかった、アンダーソン室長。それで、魔石の解析が出来たと聞いてきたんだが」
「ええ、解析は出来ました。王宮の結界を潜れるように改良がくわえられた厄介な代物でしたよ…」
「やはりそうか…」
「これがトリアン王国のものならば、我々は王宮の結界を早急に補強しないといけません。ただでさえ忙しいのに、本当に頭の痛い問題ですよ…」
やはりあの魔石は結界を無効にする転移魔法石だったようだ。結界魔法を強化する…それって…