第183話 誕生日プレゼント
「じゃあ、私を攫ったのはやっぱり王弟の指示?」
「まあ。その可能性が高いな。聖女をトリアンへ連れ帰って、戦争の大義を保ちたいのだろう。魔物はほとんどいなくなっているのに君を攫ったんだ…君を取り戻しに来たのを侵略だとかでっち上げるつもりだったのか…かなり強引だが、それだけあちらも必死なのだろう。そんなことをしたらトリアン王国はアレックス兄様に滅ぼされる…今、彼はあちらにいるのだから…」
そうか、もし攫われていたらアレックス様に会えていたかも?そう考えると少し残念だった。
「今、不謹慎な事を考えたか?」
「ええ、そんなまさか」
「そうか、まあいい。この魔石は預かっていく。それとこの革袋もな」
「はい。よろしくお願いします、ウィル」
リリーたちにも無事だと連絡を入れて、その日はそのままゆっくりとした。誕生日だということで、陛下や王妃様、ウィルと夕食を食べたがあまり誕生日だと実感がわかないままその日は就寝した。帰って来たはずのチルチルにもまだ会えていなかったが、慌ただしい一日で、体力が限界だったのだ。
次の日に起きると、枕元で青い鳥が寝息を立てて横たわっていた…
「チルチル?戻ったの?」
『…おお、おはよう、フィーネ。誕生日に間に合うように帰ったつもりやってんけど、攫われたんやて?』
「そうなのよ。チルチルは無事に帰ってくれて良かったよ。おかえり、チルチル」
『おう、ただいま、フィーネ。そや、これ預かって来たで』
チルチルが咥えて渡してきたのは、青い魔石の付いたペンダントだった。
「これ…どうしたの?」
『フィーネの王子様からの贈り物や。認識疎外の魔法が付与されたペンダントやって言ってたで』
「アレックス様から?」
『そや、指輪があるからええんちゃうかって言ったんやけど…ってしてないやないか』
「はは、色々あって今はウィルのくれた婚約指輪をしているの。そっか、アレックス様誕生日覚えていてくれたんだ…」
『当たり前やで。これつけとったら、攫われることもないんちゃうか?』
「うん、そうだね」
私は首にペンダントをつけて握りしめた。遠くにいるアレックス様が、私を守ってくれる、そう思ったら元気が出た。卒業記念舞踏会までまだ半年以上ある…それまでに、私に出来る事はなんだろう…ただ待つだけでは、何か足りない気がした。
学園に登校すると、エマが教室で暗い顔をして座っていた。隣にいるリリーは苦笑いだ。
「おはよう、エマはどうしたの?」
「えっと、昨日フィーネが攫われたって知って落ち込んでいるらしいの…」
「え、いや、でも、エマは現場にいなかったし、仕方ないんじゃないの?」
エマはパッと顔をあげ、悔しそうに言った。
「……そうです、現場にいなかったのです。その日に限って、現場にいなかったのです。何たる失態!!」
わなわなと震えるエマにリリーと私は顔を見合わせた。用事で来られなかったのだし、攫われたのもエマのせいではない。エマがそこまで気にすることでもないように思ったが、結局エマは一日中落ち込んだままだった。