第182話 チルチルの帰還
髪を乾かし、ドレスを着るとソファーで侍女のミリアさんの入れてくれたお茶を飲んだ。攫われてから何も口にしてなかったのを思い出したようにお腹がくぅーっと鳴った。私は一緒に用意されていたパンを手に取りかじった。チキンと野菜の挟まったそれはとても美味しくて、あっという間に1つ食べ終わってしまった。
「足りなければいくらでも用意しますので、何でもお好きなものを仰ってくださいね」
「ありがとう、ミリアさん。紅茶をもう一杯お願いできるかな?ミルクとお砂糖多めで…」
「畏まりました。それと、ウィリアム殿下がもう少しでお見えになられるようです」
「わかったわ。ありがとう」
ミリアさんの入れてくれたミルクティーを飲み終わる頃に、扉がノックされた。ミリアさんが扉を開けると少し疲れた顔のウィルが立っていた。
「フィーネ…無事で良かった…捜索隊を解散するよう指示していたら遅くなった。すまない…」
「私こそ心配をかけてしまってすみませんでした。あの、ウィル…頭をあげて、私が謝る方なのに…」
「いや、僕が悪かった。君からアレックス兄様の指輪を取り上げるような真似をして…結果君が危険な目にあったんだ…全て僕の責任だ。すまない、フィーネ」
「どうして、アレックス様の指輪?」
「あれには、君を守るため悪意を持つ者が近づかないように認識疎外の魔法がかかっていたんだろう?」
「どうして、それを…」
「さっき王宮に君の鳥が帰って来て、フィーネが攫われたと言ったらそう言われた。指輪を外したから君は攫われたんだろう?」
チルチルが帰ってきた。そう聞くと今すぐチルチルに会いに行きたくなったが、とりあえず落ち込むウィルをこのまま放置できなかった。取り敢えずフォローしておかないと…
「そのことを分かっていて、指輪を預かった訳ではないでしょう?私は知っていたけど、それでもいいと思って指輪を外したの。だから、ウィルが気にすることはないよ」
「それでも…君を危険にさらした事を僕は、自分が許せないんだ」
暗い顔で下を向くウィルに、私は何と声をかけるのが正解か分からず戸惑った…とにかく無事に私は自力で部屋まで転移魔法で帰ってきたのだ、だから気に病まないで欲しい…そこまで考えて私はハッとした。
「待って…私、転移魔法で自分の部屋へ帰って来たわ……」
「え?どういう意味だ??」
「だって、王宮は転移魔法が使える場所が限られているって…」
「確かに、王宮には転移魔法が使えないように結界が…」
「でも、私は自分の部屋に転移出来たわ。これ、転移魔法用の魔石よね?」
私は自分が拝借してきた袋ごと魔石を渡した。
「これは?」
「あ、えっと、誘拐犯が依頼主から預かっていた転移魔石だと思う。逃げる時に見つけてそのままもらってきちゃったの…」
「そ、そうか。逞しい君も素敵だけど、十分安全には気をつけて欲しい」
ウィルは魔石を取り出して眺めていたが、諦めたのか魔石を袋に戻して溜息をついた。
「僕には普通の魔石に見える。詳しく王宮の研究所に渡して調べてもらうよ。それと、この袋の刺繍だが…トリアン王国のマスル伯爵家のものだな」
「マスル伯爵?」
「確か王弟ネイサン殿下の奥方の弟だったと思う。まあ王弟派だろうな」