第17話 アレックス様の笑顔が怖いです
「フィーネ。お待たせ。帰ろうか」
廊下から聞こえる声に振り向くと、アレックス様が立っていた。そういえば、帰りも一緒に帰ろうと約束していた。いつの間にか、廊下から感じていた刺すような殺気は消えていた。ホッとしてリリーを見た。
「良かったわ。このままだと帰れないかと……」
「ありがとうリリー。一緒にいてくれて心強かったよ。チャーリーもありがとう」
「フィーネの友達かい?」
「はい、今日お友達になったリリアンナ様とチャーリー様です」
「男友達……」
「あ、チャーリーは、こちらのリリーの婚約者です!」
「……そうか、二人ともフィーネと一緒にいてくれてありがとう。先ほどの会場の雰囲気が気になっていたんだ。まさかこの私の婚約者に手を出す者など、この学園にいないと思うが、一応気になってね」
廊下の方を見ながら、にっこりと微笑むアレックス様からひんやりとした魔力が溢れてきた。無言の威圧が少し息苦しいほどだ。さっきまでこちらを睨んでいた令嬢たちは、真っ青になって俯いている。
「そうだ、前々から学園長に打診されていたんだけど、月に何度か魔法騎士団として、こちらで講義をすることになったよ。当初は断る予定だったんだけど、フィーネがここに通うことになって依頼を受けることにした。婚約者の様子も気になるからね」
さらに気温が下がったような気がする。これは脅迫だと思う。これからもここに来るから、私に手を出すな。私にはそう聞こえた。きっと周りの人にはさらに、手を出したらどうなるかを……
「さあ、それでは帰ろうか。リリアンナ嬢、チャーリー君これからもフィーネをよろしくね」
「はい、あの俺、将来魔法騎士団に入るのが目標です。講義楽しみにしています」
チャーリーが真っ赤になって、アレックス様に礼をした。
「そうか、こちらこそ楽しみにしている。ではまた」
そう言って、手を差し伸べてくれた。どうやらエスコートするつもりのようだ。みんなに見られるのは恥ずかしいが、ここで断るといろいろと誤解されそうだ。
「はい、では、リリー、チャーリー、皆さまごきげんよう」
笑顔が多少引きつったが、そこは許してほしい。
次の日からはアレックス様の笑顔の威圧が効いたのか、殺気立った視線を表立って感じることはなくなった。嫌味を言ってくるご令嬢は少なからずいるが、殺気を向けられることに比べたら可愛いものだ。それに緑のクラスメートにはそんな人はおらず、優しく穏やかな人が多いように思う。もしかしたら、アレックス様の仕業ではないかと秘かに思っている。
「フィーネ、今日は魔力判定でしょ。早く行かないと混むわよ。遅くなるとお昼の時間が無くなってしまうわ」
「リリーは受けるの?一度受けた人は証明書を提出したら免除されるって言っていたよ」
「そうなのよ。その証明書が家の中で紛失したみたいで、仕方ないからもう一度受けることにしたの。大体の人は一度目の結果と変わらないみたいだけど、たまに違う判定が出る人もいるみたいよ」
「へえ、面白いね。属性が変化したり、増えたりする人がいるのね」
「そんなことは稀だけどね。あと、何かの原因で魔力をなくす人もいるのよ。それは魔法使い志望の人には死活問題だから、今はそれを専門に研究する人もいるのよ」
「そうなのね。でも人口の半分は魔力を持ってないんだよね。だから職業として魔法使いがいるんだよね」
「そうね、貴族は多少なりに魔力を持っている人がほとんどだけど、平民は魔力を持ってない人も多いわね。」