第178話 sideアレックスの希望
チルチルから渡されたフィーネの手紙を読んだ。3年生に進学して充実した学生生活を送っているようで、それを嬉しく思う自分と、その姿を一番近くで見守りたかったと思う自分がいた。
進学したいから結婚しないと言われ、その後ゆっくり話すことも出来ずにここまで来た。その後は起こる事案に対応している間に半年が過ぎていった。本当なら今頃王配になっていたかもしれなかった…それはミラお婆様の解呪もあり、トリアン王の回復で一旦保留にしてもらえた。カトリーヌ殿下にも想い人はいるのだ。出来ればこのまま婚姻は白紙に戻してもらいたい。
しかしそれには大きな問題がある。王家の、現王族の地位が盤石ではないのだ。このまま俺が去れば反旗を翻す者が王弟派以外にも出てくる可能性はないとは言い切れない。他国であるミズリー国と縁を繋いでおくことは、今後の平和のためにも必要な事だと頭では理解しているのだ。
「君が王子妃になって、俺はここで王配になる…のが…いや、こればっかりは無理だ!」
チルチルに渡された陛下からの手紙を開封した。内容は現在のトリアン王国を他国から見た情勢、今後の行動と、今まで俺がしてきたことの報告を求めるものだったが、最後に記入されたことを読んで思考が一瞬停止した。
「陛下は人をなんだと思っておられるのか…こんなことを…」
陛下は最後に、もし君が成果を上げて帰国するのなら、代わりに第二王女ソフィア殿下とウィリアム殿下の婚姻を進めてはどうか?と書かれていた。第二王女の方が3歳ほど年上だがつり合いは取れるだろうと…
確かにそうすればトリアン王国はミズリー国と縁が結べるので、今後も平和的に援助が出来るだろう。しかしウィリアム殿下の気持ちはどうなんだ?彼もフィーネのことを想っているはずだ。
「フィーネ次第ということか…」
少女を想う男が二人いるのだ。余った方をトリアン王国に差し出すということか?陛下も人が悪い。例えそれが実の息子や甥であっても政治の道具にしてしまうのだから…
『それが最近フィーネとウィリアム、ええ感じなんやで。ウィルって愛称で呼んでるしな。登下校も一緒やし、何かと一緒におる。このまま離れてたらアレックスは忘れられるかもしれへんで』
一段落してお菓子を食べている鳥にフィーネの最近の様子を聞いたのだが、信じられないことを言われて耳を疑った。まさかフィーネに限ってそんなことはないはずだ。手紙にも待っていると書いてあった。そう言うと、鳥は半眼になって俺を見た。
『人間は弱いところがあるからな、ついフラフラ~っと行ってまうことだってあるんやで。いくらフィーネでも魔が差すことがないとは言えん。それにどの道、卒業記念舞踏会に間に合わんかったらフィーネは約束通りウィリアムのもんや』
そうだ、その期限があった。あと一年もない、もうすぐフィーネは17歳になるのだ。早く犯人を追い詰めて証拠を吐かさないと…
「よし、監禁している奴のところに行ってくる」
『おう、きばれよ』
暢気そうにお菓子を食べる鳥にイラっとしていたら、ミラお婆様が現れて鳥を連れて行った。精々こき使われて解決に役立って欲しいところだ。ウィリアム殿下と第二王女との婚約話も気になるが、兎に角今はこの国の内紛を早く収めて出来るだけ早くフィーネの元へ帰りたい。勿論彼女のことを信じている。
17歳になるフィーネはどんな女性に成長しているのか、前に見たのは遠目でそれも近くにはウィリアム殿下がいた。抱きしめられている光景を思い出してしまい心臓が締め付けられるように痛んだ。
「まだ、諦めたくない…待っていてくれ、フィーネ」