第177話 チルチルのお使いやで
『またや、なんで王宮におらへんのや…』
フィーネの元を発って、国境の石碑に異常が無いか確認してからトリアン王国の王宮を目指した。わいの速さなら5日あれば到着できた。そこまではええ、到着してアレックスを探しても見つけられず、また2日ほど可愛い小鳥さんのふりをして使用人からお菓子をもらいながら過ごした。
『あかん、何か会えへん呪いでもかかってるんとちゃうか…』
ずっと会えないのではと不安になりながらもらったお菓子をやけ食いしていたら、遠くの方から馬に乗ったアレックスが通りかかった。
「鳥…お菓子を爆食しているってことは、チルチルか??」
『そやっなんで毎度毎度おらへんのや!めっちゃ探したんやで!』
「それはすまなかった…2日ほど国境沿いに行っていたんだ…」
まさかのすれ違い?
『わいもその頃に石碑の所におったで…』
「ああ、近いかもしれないがそっちではなくて、国境の森にある洞窟に行っていたんだ。洞窟に仕掛けた罠が反応したからそちらに行っていた」
どうやら魔物が発生していたのは、人為的要因だったようだ。フィーネが清浄魔法をした後、魔物が発生していた原因を突き止めたアレックスは、魔法陣があった洞窟に罠を仕掛けたそうだ。魔物の発生が減少したため様子を見に来た犯人がその罠にかかったらしい。今は見張りをつけて王宮ではない場所に監禁しているそうだ。王宮は今だ王弟派が多いため、王宮の牢屋では王弟派の手引きで逃げられる可能性が高い。色々面倒なのだとアレックスは嘆息している。
「それでチルチルが来たのは、フィーネに何かあったのか?指輪は反応していないから無事だとは思っているが」
フィーネの薬指には常に指輪がはまっている。ミラのイヤーカフを真似して作った、フィーネに危険が起こった時に転移魔法が発動してアレックスが召喚されるやつだ。
「あれには悪意のある者がフィーネを認識しにくくなる認識疎外魔法も付与してあるから、よほどのことがない限り大丈夫だと思うが…」
『大丈夫や。アレックスの婚姻が延期になったんをフィーネが心配してたから来たんやで。フィーネは元気にしているし、ずっとアレックスを待ってるで』
「そうか、でも帰るための決め手がないんだ…トリアン王も回復に向かっているし、王弟派もある程度叩いて力が弱まってきているから帰れないこともない、でもこのまま戻ってもまたいずれ王弟派が力をつけて同じことになる。戦争を継続的に回避するには王弟派を完全に排除して、今のトリアン王の治世を安定させなくてはならない。今のトリアン王国は後ろ盾になる国がない、俺が王配になってミズリー国を後ろ盾にするのが一番安定する方法だとは分かっているんだ…」
アレックスは聡いと思うが、心と現実が相反する状況に打開策を思いつかないようだ。確かに王弟がいる限り、いずれ何かしらの火種になるのだろう。
『そや、これ預かってきたで。こっちがフィーネの手紙。そんでこっちが陛下からや』
「フィーネ…と陛下からか」
『内偵からでは分からんことがあるから、今までの経緯を手紙で欲しいって言ってたで』
「わかった。手紙を読んだら返事を書くから、悪いがまた届けてくれるか?」
『ええで、その代わりお菓子を沢山食わせてな。小さい姿でお菓子を貰ってもなんか食べた気せえへんねん』
「わかった。その代わりまた少し手伝ってくれるか?お婆様がチルチルが来たら頼みたいことがあるって言っていたから。勿論お菓子は好きなだけ用意させる」