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第176話 sideウィルの葛藤

 薬草採取の課外授業の為、今日はフィーネと別行動になった。今日顔を合わせていないことが不安になって彼女の部屋を訪ねた。侍女もこの時間は夕食の準備でいないのか、さっきからノックをしても何の反応もない。フィーネは戻ってきていると従僕から聞いてやって来たのだから、彼女は部屋にいるはずなのだ。中で何かあったのか?

「フィーネ?入るぞ」

 心配になって扉を開けたままにして中に入った。部屋を見渡すとソファーにもたれかかって眠るフィーネを見つけた。夢を見ているのか時折寝言を言っている。すぐにここを出た方がいいのは分かっていたが、寝顔をずっと見ていたい気持ちに抗えずその場に留まってしまった。


「アレックス…さま…」

 幸せそうにつぶやいた言葉を聞いてしまって心がえぐられた。アレックス兄様が隣国へ行ってから半年が過ぎたが、フィーネは変わらず兄様を待ち続けていた。一途な彼女に惹かれながら、その反面早く忘れて僕のことを見てくれないかと、叶わぬ希望を夢見る。はっきり言って情けない男だと思う。

「やっ…」

 短く悲鳴のような声が聞こえてフィーネを見ると、先ほどの幸せそうな様子から一変苦しそうな寝顔になっている。どうやら悪い夢を見ているようだ。手が何かを掴もうとするが、虚しく空を切る。思わずその手を取った。ぎゅっと握ると少し表情が緩んだ。

フィーネの涙が頬を伝うのを見ると起こした方がいいのか迷ったが、暫くすると安定した呼吸に変わったのでそのまま見守った。今もまだ薬指に光る指輪に目がとまった…彼女の想い人からの贈り物だ。

「何をしているんだ、僕は…」

 持っていたハンカチで涙を拭いて、近くにあったショールをそっと掛けてからその場を去った。


 自分が無力だということは嫌というほど感じている。本来なら僕が王配になれれば何の問題もなかった。年齢が釣り合わないと説明されたが、それだけが理由ではないのは十分理解している。僕が王配候補では明らかに力不足なのだ…

 何一つアレックス兄様に敵うものがない、それが今の現実だった。せめて彼が戻ってくるまでフィーネを守る、初めはそう思っていたはずだったのに、それすら危うくなっている。フィーネを知れば知るほど惹かれてしまう自分がいるのだ。先ほど寝顔を見た時も、持てる理性を総動員して彼女の側を離れた。

「アレックス兄様、早く戻ってきてください…」

 思わずつぶやいた言葉は本心だったはずなのに、相反することを考えている自分がいる。このまま戻らなければ、3年生を卒業してフィーネは僕のものになる。彼女を幸せにすることに全力を尽くすと誓うから、どうかこのまま卒業記念舞踏会を迎えることは出来ないか…

 どちらが自分の本心なのか…?最近分からなくなっている。


 3年生になって、騎士科に進みアレックス兄様の偉業を肌で感じる度に自己嫌悪になる。目指す先にいるアレックス兄様は、現在トリアン王国で戦争を阻止しながら王弟の疑惑を探っているようだ。国境沿いに増えていた魔物も、フィーネの清浄魔法もあり終息したようだ。

 王配になるための婚姻は延期されたと聞いた。兄様は確実にトリアン王国の内紛を解決しているようだ。そして彼なら必ずフィーネを奪いに戻ってくる、そう確信している。

「僕はそれまでの間に何が出来るんだ…」


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