第175話 目立っていますか
夕方ギリギリに5種類の薬草を採取して戻ると、ほとんどの班が戻ってきていた。
「何とか間に合ったみたいね…」
「まあ、色々あったから仕方ないわよね」
「そうですね。よくやったほうでしょう」
3人で健闘を称えていると、他の班の人たちが遠巻きに私たちを見ていた。なんだろう?まるで見世物の動物にでもなった気分だ。
「何か見られています。もしかしたらフェンリルの件が知られているのでは…」
確かに襲われていた3人組は先に帰っている。どのように伝わっているのか少々不安になっていると、2人組の女生徒が近づいてきた。薬草科に入って初めて同じクラスになった子たちだ。
「あの、フェンリルに会ったのよね?どんな子だった?可愛い子供もいたのよね。羨ましいわ、私たちも会いたかった」
うっとりとする様なこの感じ、前にも同じようなことがあった気がした…思わずリリーの顔を見た、リリーもこちらを見て頷いていたので疑問を口にした。
「もしかしてあなたたち魔物研究会だったりする?」
「ええ、そうよ。よくわかったわね」
「前に魔物研究会にお邪魔させていただいたことがあって…」
「そうなの?私たち1年生の時から入部しているのよ。その時は会えなかったけど、これから1年間よろしくね」
彼女たちは伯爵家のご令嬢で、ルーナとクロエと名乗った。私たちもそれぞれ名乗り友達になった。現在薬草科に在籍する生徒は27名。そのうち10名が女生徒だった。男子生徒が多いが、活発なのは女生徒のようで彼女たちも積極的な子たちで話が合いそうだった。
「じゃあ、今日はここで解散する。遅いから各自気をつけて帰る様に。迎えの馬車が無い者は言ってくれ。学園まで馬車で送れるからな。採取した薬草は明日使用するから、預かった者は明日持参するようにな」
ノア先生が解散を指示すると、皆帰宅の途へついた。私は護衛の人がいるので、そのまま待機していた馬車で王宮へ帰る。リリーはエマを乗せて一緒に帰るようだ。
「じゃあ、リリーに薬草は預けるね。また明日」
「うん、お疲れ様。また明日ね」
そのまま王宮へ戻ると制服を脱いでドレスに着替えた。初めの頃は侍女の人たちが手伝ってくれていたが、やはり世話を焼かれることに慣れなくて、最近は簡単なドレスなどは出来るだけ自分で着たいとお願いしている。薬草採取で汚れた制服は水魔法で綺麗にしてから壁に掛けた。
夕食は自室で取ることが多いので、準備が整うまで休憩しようとソファーへかけるとふうっと息を吐いた。初めての薬草採取で気を張っていたようで、ソファーの弾力に身を預けているうちにウトウトと睡魔がやってきた。
久しぶりに夢でアレックス様に会えた。まだ小さかった頃、ブルーベルの花畑でアレックス様と遊んでいた時の光景だ。私は年上で王子様のようなアレックス様と遊ぶのが大好きだった。まだ、貴族平民の関係など考えずに遊んでいた頃だ。毎月何度か遊びに来てくれる王子様。淡い初恋のような大切な思い出…
「アレックス…さま…」
急に場面が変わった。カトリーヌ殿下の手を取りそこに口づけるアレックス様…二人は婚礼衣装を着ていて、そのまま神殿に向かうようだ。私は声をかけようとするが声が出ない。ただ幸せそうな二人を見せつけられ心が潰れそうになった。まさに悪夢だった。