第173話 息がぴったりですね
声がした方へ向かった。音が聞こえるということは距離的にはさほど遠くないだろう。向かうまでにも、爆発音が数度した。きっと魔法で対抗しているのだろう。
「見えた。あそこよ!」
リリーが指さす先に3人の男子生徒の背中が見えた。急いで現状を見極めた。どうやら相手はフェンリルのようだ。人の背を越える体躯を低くし、威嚇しているようだ。立派な白い毛並みを持った大きな犬のような姿。違いは大きさと鋭い牙と爪だろう。でも彼らは知的な魔物で、滅多に人は襲わないはずだ。
「どうして…?」
「見てください!あそこに子供のフェンリルがいます」
エマが少し離れたところを指した。そこには大型犬ほどの大きさの子供のフェンリルがいた。足に怪我をしているようで、痛そうに鳴いている。
「あなたたち、何したの?!」
リリーが一人の男子生徒の腕を引っ張り声をかけた。そこで初めて私たちの存在に気づいたのか、少しばつが悪そうに男子生徒が口を開いた。
「いきなり子供のフェンリルが飛び出してきて、驚いて攻撃してしまったんだよ…そしたら後から親のフェンリルが来て、出来るだけ傷つけずに追い払おうとしているけど、怒らせてしまって…」
不慮の事故だと言いたいようだ。そんなに怖いなら獣道など進まなければいいのに…私たちは顔を見合わせてため息をついた。
「リリー、エマ。出来るだけ親のフェンリルを引き付けておいて。私が子供のフェンリルを癒すよ。子供が元気になったら、話を聞いてくれるかもしれない」
「わかったわ、でも気をつけて。子供でも危険だからね」
「うん、わかった。よろしくね」
私は素早く子供のフェンリルに近づいた。リリーとエマが防護魔法で私を守る様に結界を張ってくれた。
「こんにちは。私フィーネと言います。あなたのことを癒したいの。近づいてもいいかしら?」
「きゅうう~ん」
子供のフェンリルがいいよと言うように鳴いて、怪我した足を差し出してくれた。
「ありがとう。すぐに癒すからね。もう少しの辛抱よ」
隣に跪き、怪我した足に手を当てた。ゆっくりと癒しの光を注いでいく。傷が完全に消えた。子供のフェンリルは嬉しそうに立ち上がって尻尾をぶんぶん振っている。
「よかった、治ったわね。いきなり攻撃してごめんね、痛かったよね」
「きゅ~ん」
フェンリルはぺろぺろと私の顔を舐めて、いいよっと言うように鳴いてから、親の方へ向かって行った。そこできゅううーっと鳴いてから森の奥へ入って行った。親のフェンリルも大人しくその後を追って森に入って行ったのを見送って、私たちはフゥッと息を吐いた。どうやら危機は脱したようだ。
「すまなかった。助かったよ…俺たちだけだったら解決できなかったよ」
「フェンリルは頭のいい魔物です。あなたたちがちゃんと初動で対応できていたら、ここまで怒らせることもなかったのではないですか?」
エマが少し厳しめに注意を促す。確かに気の立っているフェンリルを追い払おうと、魔法で威嚇するのは悪手だと思う。
「兎に角焦ったんだよ。あんな大きな魔物に対峙した経験が無くて…君たちはどうしてそんなに冷静に対応できるのか教えて欲しいよ」