第172話 魔物退治も薬草科には必要ですか
「あ、さっそく薬草発見!これを決められた量採取していくのよね。まずはこれを3株…」
「ほとんどの班がここにいるようだね。いないのは、さっき獣道に入った人だけね」
「腕に自信があるのでしょう。魔物が出ても倒せると…危険ですが、薬草は森の奥の方が多いのも事実です。こちらは誰でも採取できるので、採れる量も限られてきます」
エマが周りの薬草を見ながらそう言った。確かに、ここには指定の薬草が少なそうだ。周りの人たちも、更に森の奥を目指すため移動していった。ここまでかなりの距離だが、さらに奥に進むと帰るのは単純にその距離を引き返すことになる。ギリギリ夕方にノア先生がいる場所へ戻れるかどうかだ。
「みんなと一緒に進むと、薬草の奪い合いになる可能性があるわね…」
「うん、それなら少しだけ獣道に入るのもいいかもしれないね」
「少し危険は伴いますが、そちらの方がいいかもしれません」
3人の意見が合ったので、私たちはそのまま横に逸れて獣道へと入って行った。草原から戻る地点に近づきつつ、薬草を探すのだ。開けた道と違って木々に阻まれて光があまり当たらない。こういうところを好む薬草も多いので、念入りに探していく。
「ありました。これも指定の薬草です。これは1株でいいようです。その隣にも薬草が…これは2株ですね」
私たちは順調に薬草を見つけながら、獣道を進んで行った。あと2種類で目標の5種類が揃う。リリーの提案で、少し開けたところで早めのお昼休憩を取ることになった。持参したランチを木の根元に座って食べる。
「ふふ、こういう時は貴族令嬢っぽくないわね。今は学園も男女平等を掲げているけど、少し前の親の世代まで魔法学園は男子しか入れなかったそうよ」
「それは改革があって良かったです。今は女性も広く王宮の官僚になれますが、その時代であれば難しかったでしょう。確かに地べたで食事するのは、淑女としてはどうかと思いますが…」
少し前の貴族の令嬢は、家庭教師に教えを請い、年頃になれば親の決めた婚約者と結婚するのが当たり前だった。今は、職業に就く貴族の婦人も多くなってはきたが、まだ一般に浸透はしておらず偏見の目で見られることも多い。平民の女性は自由に働けるのだから、やはり考え方が違うのだ。
「こうやって食べるのも楽しいよ」
パンに具材を挟んだものを食べ終わり、水を飲んで流し込んだ時、かすかに悲鳴が聞こえた。慌てて二人を見ると、同じように悲鳴が聞こえた方向を見ていた。すぐに食事を鞄にしまいこんで、動ける体制をとる。
「魔物が出たと考えていいのかしら?襲われたのは、先ほどの男子3人組?」
「恐らくそうでしょう。他の班は比較的開けた道を進んでいましたし、聞こえた方角からするとあの3人でしょうね。運悪く魔物に遭遇したのでしょう。叫ぶのは得策ではないと思いますが…今頃、叫び声に興奮した魔物と対峙しているのではないでしょうか」
エマが冷静に分析したが、このまま見捨てるわけにもいかない。リリーが通信用の魔石を取り出した。一度だけノア先生と通信が出来るようになっている。
「仕方ない、助けるしかないよね。ノア先生、聞こえますか?」
「ああ、聞こえている。どうした?」
「生徒が魔物に襲われているようです。今から援護に向かいますが、許可してもらえますか?」
「魔物?今の時期にか…レアなケースだが、仕方ないな。俺も向かうが、位置が把握できていない。危険なことは絶対しない事!とりあえず至急だから許可はするが、無茶なことはするな。すぐに位置を確認して俺も行く」
「はい、了解しました。よし、向かおう」
私たちは声がした方へ急いで駆けだした。地味な薬草科だが危険はつきものの様だ。