第170話 極寒対応ですね
女生徒たちが言葉を失って立ち尽くしている間に、ノア先生は教室を出ていった。リリーと私も、そのまま教室を出た。きっと彼女たちは専攻変更するのではないかと心の中で思った。
翌日、4名の内3名は他の専攻に異動したと知った。昨日3人の後ろにぼんやりと立っていた女生徒がそのまま薬草科に残っていた。気になった私とリリーは、その子に挨拶をして昨日の顛末を聞いたのだ。
彼女はアボット子爵家のエマ様と名乗った。昨日の女生徒は2年生の時からの同級生で、昨日の告白劇に無理やり付き合わされたそうだ。他の令嬢は伯爵家の令嬢で、普段から何かと付き合わされて困っていたそうだ。
「やっと解放されました。昨日のことはあえて反対せずに付き合いました。ノア先生のことは別に何とも思っていませんでしたが、先生の性格は把握していましたし、行動を起こした結果は想像がついていました。上手くいって良かったです。勿論先生にはご迷惑をお掛けして申し訳なく思っていますが」
どうやら大人しそうに見えて、強かな性格をしているようだ。薬草科は希望していたが、あの3人がノア先生目的で一緒になったことを重荷に感じていたそうだ。早い段階で3人が行動を起こしてくれたので、これで集中して勉強できると微笑んでいた。
「良ければお友達になっていただけませんか?」
「ええ、いいわ。なかなか面白い性格みたいだし、これからよろしくね。私はローゼー子爵家のリリアンナよ。リリーと呼んでください。エマって呼んでいいかしら?」
「はい、そう呼んでください」
「私は、スミス子爵家のフィーネです。そのままフィーネと呼んでください」
「そう、あなたが噂のフィーネ様でしたか。よろしくお願いします、フィーネ」
「噂…?」
「一部の生徒から、薬草園の禁断の恋、王子の婚約者なのに浮気している悪女だと聞いていました。どうやら嘘のようですが」
「悪女…」
「会えば嘘だと分かりますが、会ったことのない生徒はその嘘を信じているということです。私は興味なかったので、気にしていませんでしたが…」
「一応気をつけておいた方がいいかもしれないわね。本気で信じて何か行動を起こされたら、いくら魔法が使えると言っても危険よ。護衛の方に気をつけるように言っとかないと」
「うん、そうだね…全部事実無根なんだけど、どうして今も噂が消えないのかな…」
「それはやはり皆の嫉妬でしょうか。こんなに可愛くて、聖女で王子妃候補。性格も良さそうで、成績もいい。ここまで来れば、有ること無いこと噂して少しでも貶めたいと思うのが貴族ですね」
エマが堂々とそんなことを言った。リリーは同意するようにエマの手を取った。
「わかる?フィーネは可愛いのよ。初めて会った時から本当に可愛くて、すぐに友達になってもらったの!実際に性格もいいし、頑張り屋さんでね、エマに分かってもらえて嬉しいわ」
若干引き気味のエマが苦笑した。たまにリリーは私を褒めすぎて照れくさい…
「リリーがフィーネを大好きなのは分かりました。これから1年間よろしくお願いいたします」
「うん、よろしくね。エマ」
3年生になって新しくお友達が出来た。魔法薬の研究は、基本3名以上でチームを組むと書いてあったので、このメンバーで研究が出来る。あの4人の中で唯一薬草学を純粋に希望していたのだから、きっとエマとなら一緒に魔法薬にも取り組めそうだ。あと何人専攻変更希望者が出るかは分からないが、先ほど教室にいた他の人たちも私のことを気にする素振りはなかったので、落ち着いて授業に集中できそうで安心した。