第169話 薬草科大人気です
「おはよう、フィーネ。今日からもよろしくね」
薬草科のある建物に入ると、入り口でリリーが待っていた。リリーも薬草科専攻なのだ。チャーリーは騎士科なのでウィルと一緒になる。
「おはよう、リリー。お互い無事に希望専攻に入れて良かったね。今年もよろしくね」
「ええ、本当に今年の希望倍率は凄かったわね。私たちは進学内定者だったから希望通り入れたけど、一般進学者はかなり大変だったらしいわよ」
「そうなんだ…それは大変だったね。やっぱり天使様効果かな?」
「そうね、専攻に迷っていたら、癒しがいる方を選ぶってことかしら?」
3年生は、授業形式の講義は少なく、自分のやりたい分野を研究する演習が主となる。薬草科への進学は1,2年時に魔法薬の授業をとっていた者が優先されるため、基礎はそこで終了しているのだ。
前期は何名かで研究課題に取り組み、魔法薬を開発したり、薬草の研究をしたりと多岐にわたる。卒業試験は個人で魔法薬を開発すること、もしくは研究論文を発表して、それを評価し卒業資格が得られることになる。
学園には、魔法科・騎士科・薬草科・総合技術科などがあり、それぞれ希望する専攻科に進むのだが、それぞれ定員があるので、第一希望が通らないと、第二希望に進むことになる。大抵の者が希望通りに進めるはずなのだが、今回はいつもあまり人気のない薬草科に希望者が多かったようだ。
ノア先生曰く、薬草科は地味で楽に見えて、大変なところらしい。研究した結果が上手くいかない場合、結果が出るまで同じことの繰り返しだし、徹夜で研究室に籠ることもあるそうだ。引き籠りかと思えば、野外に出て薬草採取で歩き回ることも多い。山を歩き回れる体力も必要のようだ。
事前に内部の様子も聞いて、リリーと私は薬草科を希望した。でもリリーと教室に入ると、教室内は華やかな女生徒が多いように見えた。初めの一か月は専攻変更が認められている。何人の生徒が残るだろう、不安になってリリーと私は顔を見合わせた。
教室に座っていると、ノア先生が入室してきた。初日は薬草科の説明と今後の予定が知らされるようだ。
「おはよう。ようこそ薬草科へ。事前にここがどういう所か説明してあると思うが…理解して希望したと信じて、5日後はさっそく薬草採取で一日山へ行く予定だ。この季節に採取できる薬草は多い。配布する注意事項と準備する物を確認して、各自備えておいてくれ。明日からは、授業や研究が始まる。カリキュラムも配るので、自分が何をしたいのか、明日以降に面談させてくれ。今日は配布物、支給品を貰った者から帰ってくれて構わない。質問のある者はあとで教科担当室に来てくれ。では、解散」
ノア先生がそう言うと生徒は各自配布物、支給品を手に教室を出ていったが、何名かの女生徒がノア先生に近づいていった。
「あの、質問があるのですが」
「おう、なんだ?」
「先生は婚約者もいませんよね?誰か意中の方がいらっしゃるのですか?」
「あ?」
ノア先生は、短く不機嫌な言葉を発して固まった。リリーと私はちょうど教室を出ようとしていたが、思わず立ち止まって様子を見てしまった。
「私たち先生をお慕いしていますの。もし意中の方がいないのであれば、お付き合いしていただくことは出来ませんか?」
女生徒は全部で4人。これは集団告白なのか??一人では怖いのでみんなで告白?でも、これで誰かが選ばれたら気まずくないだろうか?いや、それよりも相手は去年まで学生だったとしても、今は先生だ…
「お前たち、薬草科を追い出されたいならそう言え。今度は容赦はしない」