第165話 目標は高く持ちます
「いちゃもん??」
『そや、ただ文句を言いたいだけや。どないもならんことを、フィーネに八つ当たりしたいだけや。ウィリアムに言いつけたらええねん。腹立つやろ。何回もつついたろうか思ったで』
チルチルは随分頭の上で我慢してくれていたようだ。心強い味方がいたことに気づいて、重く圧し掛かった言葉が少し軽くなった気がした。
「ふふ、ありがとう。そうね、ちゃんと言い返せばよかったのね。でも、マナーが全然なのは事実だし、王子妃になりたいと思ったことはないけど、アレックス様のお嫁さんになるにしても、きっと同じことを思われるってことよね?それなら、私はやっぱりマナーを身につけないといけないと思うの。取り敢えず、何を言われたかは伏せて、新しい講師の先生を探さないとね…」
その後王妃様に呼び出された私は、ウォード伯爵夫人に言われたことは伏せて、新しいマナー講師を派遣して欲しいと願い出た。
「そう、事情は話してくれないのね。まあいいでしょう…丁度フィーネのマナー講師をしたいと言われていたので、その方にお願いしましょう。頑張ってくださいね」
「はい、お心遣い感謝いたします」
翌日、私の部屋を訪れたのは私のよく知る人物だった。
「キャサリン様…」
「フィーネちゃん、久しぶりね。元気だったかしら?」
スコット侯爵夫人のキャサリン様だ。フィオリーナ様のお母様で、王妹に当たりアレックス様の伯母でもある。以前からフィオリーナ様の魂を持つ私のことを娘のように可愛がってくれていた方だ。
「はい、お久しぶりです。あの、まさかマナー講師というのは…」
「わたくしよ。元王女ですし、マナーは完璧ですわ。本当は最初からわたくしが立候補していたのよ。それなのに、横やりが入ったようでウォード伯爵夫人に決まってしまったの。辛く当たられたのではないかしら?あの方根は真面目なのですけど、ミネルバ嬢のことを小さい頃から教えていたので、あまりフィーネちゃんのこと良く思ってなかったのよ」
「え…と、そうですね、厳しくご指導を頂いたのですが、力及ばず講師を降りてしまわれました…」
「そう、仕方ないことだと思うから、あまり気に病まないでね。フィーネちゃんは十分頑張っているわ。でもね、マナーは淑女の武器よ。磨けば磨くほど自分を守ってくれる。だからあなた自身のために、そして伴侶となる方のために磨けばいいのよ。周りの声は気にしないでね」
もしかしたらキャサリン様は、ウォード伯爵夫人がマナー講師を降りた事情を知っているのかもしれない。それでもそのことに触れずに励ましてくれた、そのことがとても有り難かった。そして結婚する相手をウィリアム殿下ではなく伴侶と言い、誰のためだと敢えて言わずに…
「はい、頑張りますのでよろしくお願いいたします」
それからのマナー講習は、順調に進んだ。苦手だった立ち振る舞いは、キャサリン様の分かり易い指導でめきめきと上達していった。さらに、私に対してあまりよく思っていない態度を示していた他の講師の方々も、キャサリン様が私を支持していると示すと、態度を軟化させていったため王子妃教育はかなり取り組みやすくなった。
学園が終わると、放課後は王子妃教育、休日も同様に王子妃教育…気がつけば学園の後期は終わっていた。後期試験も問題なく終了し、2年生と3年生の卒業記念舞踏会が開催された。2年生は卒業しない生徒も参加する。2年生で卒業する生徒を見送るのだ。私も参加するため、朝から舞踏会の準備に忙しかった。