第162話 薬草園の見学
綺麗に区画された花壇に、いろいろな種類の薬草が元気に育っているのを見ながら、そこに書かれた薬草名を見ていく。ふと、前を見ると知っている人物が花壇の前にしゃがみこんでいた。
「ノア…先生?」
その人物は声に気づいてこちらを見た。やはりノア先生だったようだ。
「あれ、フィーネ…と、ウィリアム殿下、これはまた珍しいところで会いましたね」
「えっと、どうしてここに?」
「そりゃこっちのセリフだけど…俺は父がここの管理責任者だから、たまに手伝いに来ているんだよ」
「そうでしたか。私はウィルに誘ってもらって、見学に来ました」
「そうか、それは良かったな。殿下が薬草に興味があるとは初耳ですが…」
何やら不穏な雰囲気に、ドキリと胸が騒いだ。
『なんや怖いな…仲ようせなあかんで』
チルチルの言葉に二人がハッとしたように距離をとった。
「そうでしたね。今はあなたが婚約者でした。お邪魔してはいけないので、俺はこれで失礼します。フィーネ、また明日薬草園においで」
そう言って、ノア先生は温室を出ていった。ウィルに握られた手に力がこもった気がした。
「ウィル?」
「あ、何でもない。さあ、見て回ろう」
何事もなかったように、ウィルはそのまま花壇を進んで行った。ただずっと手は繋いだままだった。
「昨日は、殿下と薬草園でデート…」
「いや、デートではないよ。ただ見学について行っただけだから…」
「でも、手を繋いでいたんでしょ?それもずっと」
「う、ん…でもエスコートじゃないの?紳士ならするんでしょ?」
リリーは半眼でこちらを見た。どうやら、エスコートではないようだ。
「で、でも、ウィルだよ。そんな他意はないよ」
「それ、それよ。愛称呼びを許して、普段も一緒に登下校しているのよ。それのどこが他意はないと言えるの??フィーネ、ちゃんと現実を見て。それでなくても婚約者なのよ。このまま行けば卒業後に結婚なんでしょ?女生徒があなたをどんな目で最近見ているか気づいている?」
「え、っと?そう言えば、よく見られている気はしていたけど…」
「羨望の眼差しよ!!羨ましいってこと。最近身長も伸びて、すっかり性格も良くなって凛々しくなった美青年よ。それも王子様。もう、どれだけの女生徒が涙を飲んだか」
「ええっそんなこと、言われても…」
「まあ、フィーネはアレックス団長をずっと見ていて、美男子に対して免疫が出来ているんでしょうけど、他の生徒は最近の殿下にメロメロなのよ。前は我儘なところが目立って、皆近寄りがたかったんだけど、今は人当たりも良くなって、成績も上位、完璧な王子様なのよ。ってそこ、他人事の様に流さないでちゃんと聞いて!」
へぇっと感心していたのだが、どうやらリリーには違って見えたようだ。
「兎に角、フィーネが思っている以上に、二人はお似合いのカップル認定されているからね。もし、アレックス様を待ちたいと思っているなら、距離感を保って行動した方がいいわ。このままだったら完全に外堀を埋められて、攻略される未来しか見えない」
リリーの言葉にドキッとした。すでに身に覚えのある私はこくこくと同意して頷いたのだった。