第159話 アレックスの奮闘記②
国境沿いの森を進んで行くと、興奮した状態の魔物が次々に襲い掛かってきた。今までの人生で多くの魔物と対峙してきたが、このような様子の魔物は初めてだった。何かがおかしい…そう思った。清浄魔法で弱体化するまでは出来るだけ衝突を避け、国境を隔てる崖の側まで近づいた。
崖の上でも戦闘が始まっているのか、時折魔法の光が見えた。俺は石碑の見える位置に移動して、魔物を倒しながらフィーネがやって来るのを待った。一目見たい一心だった。
やがて石碑に走り寄る青い髪の少女が見えた。少し髪が伸びたように見えた。フィーネは石碑の周りに氷の防護壁を作り出した。完璧な氷魔法だった。フィーネは結界を強化するため石碑に清浄魔法を込め始めた。側にはウィリアム殿下の姿も見える。炎を帯びた剣を持ち、フィーネに近づく魔物を倒しているようだ。自分が知っている二人より随分魔法が上達したようだ。そう思うと、会えていない時間を思い知らされた。
突然、氷の防護壁が消えた。きっと魔力を使いすぎて、防御にまで力が及ばないのだろう。それでもウィリアム殿下が、魔物をフィーネに近づけないように戦っていたので事なきを得ていた。やがて石碑が淡く輝きだした。結界が完成したようだ。これで魔物は弱体化されるだろう。そう思ってフィーネを見ると、彼女は石碑の横にへたり込んでいた。魔力が限界なのだろう。そう思った瞬間、フィーネに襲い掛かろうとする魔物が視界に入った。
「フィーネ!!」
思わず叫んでいた。それと同時に雷魔法を発動して魔物を狙った。遠かったが何とか命中したようだ。フィーネの無事を確認してホッとしたのも束の間、その後の光景に愕然とした。フィーネが這いながら崖の下を見るような仕草をした後、そこに近寄ったウィリアム殿下がいきなりフィーネを抱き寄せたのだ。
「は?」
愕然とする俺を置いて、フィーネを抱き上げたウィリアム殿下はその場を去っていった。
「アレックス殿!」
俺を呼ぶ声にハッとした。そうだ、今は魔物の殲滅が先だ。なんとしてもこんなところ、出来るだけ早く片付けてフィーネの元へ帰りたい。俺は盛大に魔物に八つ当たりして、ほとんどの魔物を駆逐した。後に魔王降臨と恐れられたのは、フィーネには内緒だ。
ほとんどの魔物がいなくなった後、俺たちは原因を解明するべく森の中を調査した。その結果、森の奥の洞くつで黒魔術の魔法陣を発見した。どうやらここから魔物は生み出されていたようだ。今はフィーネが強化した結界のせいで、効力は薄れているようだが厄介な代物であることは確かだ。この可能性を考えミラお婆様から小瓶を2本預かっていた。一つは血、もう一つは聖水だった。
俺は血を魔法陣にかけ、その後に聖水で清めた。更にここに近寄れないように、洞窟の入り口を土魔法で塞いでおいた。更にここに近づいた者を捕縛できるよう、罠を仕掛けた。誰がこんなことをしたのか想像はつくが、証拠が何もなかったら追求しようがないのだ。是非罠にかかって欲しい。
その後何もなかったように、王宮へ戻った。幸い怪我をした者も少なく、ミラお婆様にすぐに治療してもらえた。魔物被害はこれで当面心配ないだろう。
「そういえば、なぜお婆様は来なかったのです?魔物退治得意でしょう?」
「あら、やだ、老人は労わりなさい。現役ではないのだから、ゆっくりさせてよ」
ドラゴンを平気で倒す人を労わる必要があるのか疑問だったが、その場で反論は控えておいた。魔物相手に疲弊した後に、お婆様と戦うのは避けたかったのだ。
「それで、意中の人とは会えなかったの?元気がないようだけど」
「少しだけ見ましたよ。それでいいんです、今はやるべきことがありますから…」